託宣が下りました。

 ……騒がしかった夜が明け……

(眠い)

 あくびを噛み殺しながら、わたくしは部屋のカーテンを開けました。

 自室ではありません。父の部屋です。
 我が家の中でもっとも簡素と言っていい父の寝室で、今、我が父が眠り込んでいます。

(……よく寝てる)

 寝息を確認し、ほっと一息つくと、わたくしは父の寝室を辞しました。

 父を市職員の家からこの家に移して以降、眠らずについていましたが、もう大丈夫そうです。
 部屋を出て、うんと伸びをして――

「姉さん!」

 向こうからドタバタとラケシスが駆けてきました。「姉さん! 父さんは!?」

「ラケシス、帰ってきていたの?」

 驚いてわたくしはそう問いました。ラケシスは軽鎧に剣と明らかに戦闘用装備で、今まさに洞窟(ダンジョン)から帰ってきたばかりといった様相です。

 よく見ると顔にも怪我があります。治療師が一緒だったはずですから大半の怪我は消えているのでしょうが、それにしても。

(危ないところに行っていたんだものね)

 そう思うと、胸が痛みました。

「――父さんなら、大丈夫よ。今は落ち着いて寝ているの」
「本当に? 重傷だって聞いたよ? それで急いで帰ってきたんだから!」
「………」

 わたくしは返事に(きゅう)しました。
 重傷? 重傷。そう、ソラさんもそう聞いたと言います。
 ですが――。

「あのねラケシス。ちょっと情報がね、どこかで狂ったらしくて」
「はあ?」
「怪我をしたのは本当。でも……全然重傷じゃなかったの」

 昨夜、それを知ったとき――。

 これ以上なく嬉しいことだと思いました。こんな最高の『間違い』があるでしょうか?

 なのにそれを素直に喜べなかったのは、父たち市重役の意識がすぐに「誰が間違った情報を流したのか?」という議論に及んだからです。

 母に父の容態を伝えた人物は、身元もしっかりした、間違いのない人でした。ですが彼は、父の容態を直接目にしていませんでした。

 彼に、「重傷だ」と教えた人物がいたのです。

 その人物も市の職員でした。けれど事件後行方をくらませています。

 そしてその人物が元々王都の――それも王宮近くに仕えていた官吏だと聞いたとき、わたくしは地面が崩れるような思いをしたのです。


 確証はありません。まさかそんなはずは、と否定するぐらいしか、今はできない。


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