託宣が下りました。
「そっか、軽傷なのか」
ラケシスはほうとため息をつきました。良かったーと壁に手をつきます。
「でも魔物に襲われたのは事実なんだろ? よくその程度で済んだね」
「それが……」
わたくしはさらに返事に窮しました。顔が赤くなったような気がします。
……恥ずかしさで。
(なぜわたくしが恥ずかしく思わなくてはならないの?)
その理不尽さに自分で腹を立てますが、仕方がありません。とにかくラケシスに説明しなくてはと、うまいごまかしかたを探していると、
「全てヴァイス様のおかげですよ」
ほほほと笑いながら母が現れました。
今朝も美しい装いに、目の下のくまがアンバランスです。……今日ぐらいはそんな顔をしていてください、母よ。
「母さん! ヴァイス様のおかげって何さ?」
「ヴァイス様がお父様に贈り物をしてくださっていたのですよ。平時も使える鎧のようなものです。とても軽い素材だったけれど、魔術で強化してあったのね、魔物の爪など通さなかったわ」
母は嬉々としてそう説明しました。
へえ、とラケシスが目を丸くします。「ヴァイス様、気が利くところもあるんだ」妹の中で騎士の評価が少しぐらいついたのでしょうか。
わたくしは――無言でした。
(鎧のような……もの?)
……腹巻きが?
実際、それは魔術で強化した布だったそうです。そして、父を魔物の爪牙から守ってくれたのは、たしかにそれだったのです。
それを聞いたとき、わたくしは何とも形容しがたい気持ちに襲われました。
父の無事を素直に喜べなかったのは、五割ほどこの事実のせいかもしれません。
しかも。わたくしはてっきり、騎士信奉者である母が父に無理やり着せたのだと思ったのですが――。
違ったのです。
父自身が、自ら身につけたというのです。
『……寒かったんでな』
そう言って目をそらした父。ああお父様、アルテナの中でお父様のイメージがひとつ崩れました。
お腹を温めるのはもちろん大切。ですが、騎士からの贈り物をあっさり身につけてほしくなかった。複雑な娘心です。
「とにかく良かった」
ラケシスは頭をかきました。「あー、お風呂入りたい」と女の子らしい一面をのぞかせます。
「入っていけばいいじゃない。すぐ用意するわ」