託宣が下りました。

 助けを求めてる?――

「いかなきゃ」

 わたくしは奥へ進もうとしました。けれど、手首は強く掴まれたまま。

「だめだってば。きこえないの?」
「え?」
「まものの声だ」

 言われてようやくわたくしは、()()が洞窟に吹くすきま風の音ではないことに気づきました。

 甲高く異様な声が、猫の声に重なっています。聞こえる方向が――同じです。

 にゃあ、にゃあと、猫の鳴き声が激しくなっていきます。

 だんだんと、切実な音色に。

 ――猫が魔物に掴まっている?

 そのことに気づいたとき、胸が押しつぶされそうになりました。

「助けなきゃ!」

 前に進もうとしたのに、ラケシスの力に勝てません。「放して! 放してラケシス!」

 渾身の力で手を振り払おうとしたのに、まったく通用しない――。

「逃げようねえさん!」

 やがてラケシスはわたくしの手を掴んだまま走り出しました。洞窟の外へと。

「待ってラケシス、お願い、猫が……!」
「だめだよ、ここからはなれるんだ!」

 ラケシスの手が熱い。まるでわたくしの手首を焼こうとしているかのよう。

 どうしたってラケシスのほうが力が強い。そのことが、たった今知ったことのように頭のてっぺんにどかんと降ってきて――。

 とたん、全身が冷水をかぶったように冷えました。
 なに? 何なのだろうこの感覚は。

 幼いわたくしには、ラケシスの気持ちは何一つ理解できなかったのです。誰より勇猛であるはずの妹が逃げの一手に出た上、こうしてわたくしを乱暴に引っ張っている――そのことがあまりに衝撃で。

 恐いと、思いました。

 たったひとつ、強く理解してしまった事柄があったのです。
 猫の鳴き声が遠くなるのを背中に聞き、やがて洞窟から出て町の景色が目に飛び込んできたとき。

 ……どれだけ、()したいことがあったとしても。

 自分は力ある人には敵わないのだ、と。


(……それが原因、だったのかしら)


 長らく忘れていた出来事です。当時のわたくしにはつらすぎたのかもしれません。

 あ、でも、猫は無事でした! さすが自警団にも見放されている洞窟だけあって、相当弱い魔物しかいなかったようです。

 それに、町に戻ったラケシスが飛び込んだのはその自警団でした。

 結局、ラケシスのほうがずっと冷静で正しい判断だったのです。今ならわたくしにも分かります。分かりますが……

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