託宣が下りました。

 ヨーハン様は、アレス様や騎士が冒険を始めたばかりのころの、ごく初期のパーティメンバーだったそうです。

 ですが、ヨーハン様の無謀な行動が元で、当時の仲間が一人再起不能になり……

 そのときのパーティは結局解散してしまったそう。ヨーハン様はそれをとても後悔していらっしゃいました。

「言っとくがヨーハンが勝手に出て行ったんだぞ。俺やアレスは引き留めたんだ。あいつの知識は十分に活用できるからな」

 騎士は身を乗り出すようにして主張しました。

「だがあいつは本当にさっさと自分に見切りをつけるやつでな。それをやめろと昔から言っているんだが、直らん」

 ぶすっと口をとがらせます。
 わたくしは新しい包帯の用意をしながらそれを聞いていました。

「……わたくしは、ヨーハン様の気持ちが少し分かる気がします。わたくしも『致命傷になる前に去りたい』と、考えてしまいますし」
「そうか?」

 騎士は首をかしげました。「巫女はどちらかというと諦めないタイプじゃないのか? 俺はそう思っていたぞ」

「そんなときもたまにあるだけです。逃げたい気持ちのほうが多いくらいですよ。……がっかりしますか?」
「がっかり? どうしてだ?」

 本気で理解できないと言いたげにきょとんとする騎士。
 わたくしは騎士のその表情を、胸に焼き付けました。
 彼の反応に、ほっとしている自分の心ごと。


『時には、致命傷を恐がらない勇気が必要なんですよ』


 ヨーハン様は最後にそう言って、悲しげに笑いました。
 自分にはまだできないんです、と。

 致命傷――命に至る傷。
 命を懸けるほどの……勇気。

 実際には、人はそんなに簡単に勇気を発揮できません。何より命が大切、それが当たり前なのですから。生存本能は、修道院でもっとも肯定されている概念です。

 なのに――世の中にはたやすくその勇気を出す人がいる。
 それは例えば、『ご褒美』ひとつのために強力な魔物に立ち向かうこの騎士のように。

「この傷……痕が残りそうですね」
「そうだなあ」

 騎士は呑気な返事をします。それがとてももどかしい。

「あなたの体ですよ。もうちょっと真剣に考えてください」
「しかし傷痕ひとつで命は取られん。気にしすぎるのは性に合わない」
「それは……そうですが」

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