託宣が下りました。
「どうした巫女よ?」
「ね、ねずみが」
「あああれか。心配ない、あれは特殊な土で作った人形だからな」
「人形……?」

 わたくしはおそるおそる近づきました。

 とても人形とは思えない精巧さです。ですがたしかに、触ってみると生き物とは違う感触がします。
 思い切って持ち上げてみると、思っていたよりずっと軽い人形でした。一体なにで作られているのでしょうか。

「俺の妹が人形遣いでなー、巧いもんだろう?」
「……何に使うものなのでしょうか?」
「念をこめると動くのさ。それで本物のねずみを追い払ってくれる」

 ねずみがねずみを追い払うところを想像して、わたくしは首をかしげました。

「その役割なら、猫のほうがよかったのでは……?」
「”猫はきらい"だそうだぞ」

 理由はそこですか。
 わたくしがうーんとうなっていると、騎士は何やら感慨深げな目をしました。

「巫女が俺とまともに話してくれるとは……」
「!」

 しまった。そんなつもりはなかったのに。
 この店の異様さに飲まれてしまって、騎士に反抗することをすっかり忘れていたのです。

 わたくしはさささと騎士から後ずさりました。これ以上後ろに行っては店から出てしまう位置まで来ると、きっと騎士をにらみます。

「なぜそんなに俺を嫌うんだ、巫女よ――」

 騎士がこちらに向かって一歩踏み出そうとした、そのとき。

「客人とは誰だね、ヴァイス?」

 とことこと、いやに軽い足音をさせながら、二階から降りてきた人物。
 ひょろりとした、失礼ながら枯れ枝のように細長い男性です。まだ老年には早いでしょうが、腰が曲がっています。髪は癖毛で灰色。

「親父殿。こちらは星の巫女アルテナ・リリーフォンス殿だ」

 騎士ヴァイスはその男性にわたくしを紹介しました。
 風貌はまったく似ておりませんが、どうやら騎士のお父上のようです。わたくしは店の出入り口ぎりぎりから、ぺこりと頭を下げました。

「うん? 星の巫女アルテナ……」

 まばらにひげの見える細いあごをこすりながらわたくしを見つめたお父上は、やがて小さな目を丸く見開きました。

「おお! つまりうちの嫁になる娘さんか」
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