託宣が下りました。

 レイリアさんをシェーラに任せ、わたくしはただじっとしていました。動く余裕がなかったのです。
 胸が引き裂かれんばかりに痛くて、それを(こら)えるのに必死で。

(全部、偽り――? まさか)

 シェーラの言うとおり、とうてい信じられる噂ではありません。だってわたくしは、実際に騎士とやり合ってきたのです。彼と交わした数々のやりとりがすべて偽りだったなどと――。

 信じられない。
 信じたくない。

 でも、同時に疑問も浮かんでしまう。ずっと押し隠し、考えないようにしてきた疑問です。そもそも……

 そもそも騎士は、なぜわたくしなどを選んだのかと。

(何の取り柄もない、知り合いでもない、ただの修道女だったわたくしをどうして?)

 ……エリシャヴェーラ様から逃げるために、都合よく下った託宣を利用した……

 それなら、わたくしを選んだ理由は説明がついてしまいます。むしろそれ以外に理由などないような気さえしてくるのです。

「違う」

 声に出してつぶやいてみました。
 何とも空虚で風に溶けてしまいそうな声でした。

 ――胸が痛いのは、噂を信じてしまいそうだから。

 どうしたって、「そんなわけないわ」と笑い飛ばすことができない。できない――。

「ヴァ、ヴァイス様に聞いてみれば」

 シェーラの声も震えていました。レイリアさんがすかさず応えます。

「本当のことを言うとでも?」
「……ねえあんた、それで人生楽しい?」
「楽しいですよ。お金さえあれば」

 わたくしはうつむいていました。シェーラの言葉もレイリアさんの言葉も、右から左へ抜けていきます。

 と――

「迎えに来たぞ!」

 遠くから駆けてくる人影――大きな声。
 わたくしははっと空を見上げました。雨雲はもうじき頭上へとやってきそうです。
 すっかり忘れていたのか、シェーラが飛び上がるほど驚きました。

「あ――」
「ん? どうした辛気くさい顔をして」

 四阿(あずまや)までやってきた騎士は、ふしぎそうにわたくしたちの顔を見渡しました。

「喧嘩でもしたのか? 珍しいな。仲裁は必要か?」
「ち、違いますよヴァイス様」

 シェーラが無理やり笑みを貼り付けるのが分かります。本当に、この親友には面倒をかけてばかりです。

「大丈夫です、何もありません。ね、アルテナ?」
「……ええ」

 わたくしはやっとの思いでそれだけを告げました。

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