託宣が下りました。

「正確には俺に会うからだな。手紙には遠回しにしか巫女が来ることを書かなかったし――。というか、つけているというよりは、一種の護衛のつもりなんだろう」
「護衛?」
「大切な星の巫女だからなあ」

 騎士は腕を組み、うんうんとうなずきました。「あとは、それを利用するやつらが近づかないように、という護衛だな」

「利用するやつらというと……」
「今のシェーラ殿は、反逆者どもが頭にいただくにはもってこいだ」
「………」

 わたくしはため息をつきました。「では、シェーラたちの後を追ったあの二人は必ずしも悪ではないのですね?」

「悪じゃない。王宮の手の者ってだけでな」
「………」

 湿っぽい風が吹き、四阿(あずまや)に寄り添う林がガサガサと鳴りました。

「おっと。早く移動しなくては雨に降られるな――巫女、行こう」

 騎士が手を差し出しました。
 わたくしは何気なく手を出し返して――それから、はっと気づきました。

「え、あの」
「よし。急ぐぞ!」

 騎士はわたくしの手を握ったまま意気揚々と歩き出します。急ぐぞと言いながら、その足取りに急いだ様子はありません。

 手が――大きな騎士の手に包まれて、熱く火照っていきます。

 力強いのに、その手に本気の力は入っていません。わたくしが振り払おうと思えば振り払えてしまえそうな……

「………」

 わたくしは逃げようとはしませんでした。
 そっと彼の手に掴まるようにして指に力をこめ――そうして彼についていきました。

 彼の、導くままに。

(……すべて、偽り)

 心の中でレイリアさんから聞いた噂を思い返せば、胸が焼け付くように痛みます。
 やっぱり、「そんな噂、間違いよ」と言えない。

 それでも――

 繋いだ手の温かさは、実際に触れ合った者だけに分かるもの。わたくしだって、騎士のことを少しは知っている。

 以前「この気持ちだけは否定しないでくれ」と囁いた、あの声の寂しそうな響きを、この胸に覚えている。

(……知らない人の噂などで、目の前の人を疑いたくない)

 それは情に流された誤りなのかもしれない。裏切られるかもしれない。だとしても――

 『人を恨まず。すべては己の心ひとつ』。

 先を行く騎士の背中を見つめながら、わたくしは心の中に誓いました。騎士の口から聞くまでは、自分からこの人の気持ちを疑ったりしない。決して――。


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