託宣が下りました。
正直に申し上げます。このときわたくしはいっぱいいっぱいでした。
シェーラの託宣に、騎士に関する噂。わたくしの選ぶべき道……そんなようなものがないまぜになって、本当に頭が回っていなかったのです。
……そうでなければもう少し早く疑問に思っていたはずです。騎士はいったい、どこに行こうとしているのか、と。
騎士は途中で馬車をつかまえました。そのときは、人に姿を見られないために馬車に乗るのだと呑気に考えていたわたくしでしたが。
違いました。単純に、目的地まで少々距離があったのです。
*
「……ここは、どちらのお宅ですか?」
おそるおそるそう尋ねると、騎士は胸を張りました。
「俺の家だ」
「――――ええと?」
「だから、俺の家だ」
わたくしは絶句しました。はしたないながら口をあんぐりと開けて。
「だって『羽根のない鳥亭』は……」
「あれは実家だ。今の俺は一人暮らしだ。使用人はいるが」
そう言って、門をくぐる騎士――。
わたくしはその後を追えませんでした。足が地面に根を張ったように動きません。
あまりの衝撃に、呼吸さえ忘れそうです。あっけにとられたまま目の前の家を見上げます。
――お屋敷、です。
いえ。豪邸、と呼ぶべきでしょう。
町外れにどんと居座った建物。大きすぎて建物の端を見つけるのに苦労します。おまけに壁や屋根にほどこされた彫刻や細工――シェーラの家の別荘と同じくらいか、下手をしたらそれよりも豪華かもしれません。
王都の中央を外れたところにあるので不便ではありますが、その分周囲を豊かな常緑樹の自然に包まれ、目に優しい色の壁は冬のこの時期でも寒々しさを感じさせません。
正直なところ、騎士には似つかわしくない趣味のよさです。
「巫女、どうした? 入らないのか」
「……そのう、このお住まいにはいつから?」
「魔王討伐の褒美にもらったんだ。手配に時間がかかったから一年は経っていないがな」
「………」
「元々はどこかの貴族の家だったのを改修したらしいぞ。アレスが絶対に嫌だと言い張ったので俺に回ってきた」
「な、なるほど」
アレス様に贈られた屋敷というのなら納得できます。国を救った勇者にはそれぐらい必要でしょう。
いえ、もちろん騎士もそれに値するのですが――なぜか、騎士に豪華な褒美が贈られるところが想像できなかったのです。