託宣が下りました。
それにしても……勇者様一行に褒美が贈られたということは。
「では、カイ様も何かいただいたのですか?」
「ああ。あいつは末の王女との結婚を勧められていたな」
「!」
ぎくりとわたくしの心臓が跳ねました。末姫ということは、エリシャヴェーラ様ではありません。でも……
騎士はわたくしの手を引きながら、軽い口調で話します。
「断固として断っていたぞ。代わりに終身宮廷魔術師である権利をもらったはずだ。他には店をもらったやつもいる。でかい宝石の原石を国に探させたやつもいる」
「アレス様は……?」
「あいつは一番地味だ。今後日常生活に一切関わってくれるなという契約」
わたくしは感心しました。何とアレス様らしい望みでしょうか。勇者ともなれば、放っておいてはさぞかし周囲がうるさいに違いありませんし。
「俺は何でも良かったから家にした。とりあえず将来嫁に来る人が喜べばそれでいいと――さあ、じっくり見てくれ。ここが俺たちの家だ」
呼び鈴を鳴らすと、重い扉がしずしずと開き、使用人らしき男性が現れました。
頭を下げた男性が、ちらりとわたくしを見、それから騎士を見ます。
騎士は軽くうなずいて、
「ようやく連れてこられた。彼女が俺の妻になる人だ」
「ま、待ってください! わたくしはまだ結婚するなんて――」
「……お待ちしておりました」
まるでわたくしを遮るように、男性が口を開きました。
痩せた壮年の男性です。髪に白髪がまじっています。わたくしに向かって頭を下げたあと、柔和に微笑み、洗練されたしぐさでわたくしたちを中へと促します。
「どうぞ、お入りくださいませ」
わたくしはもはや目もくらむような思いでした。一歩足を踏み入れれば、修道院とは別世界が広がっていく――。
空気が違う。そんなことを他人の家に本気で思う日が来るとは思いませんでした。
今思えばシェーラの家は、まだ庶民的だったのかもしれません。何しろシェーラのような女の子が育つ環境ですし。