託宣が下りました。
 けれど不安なわたくしをよそに、お父上はにこにこと上機嫌でした。

「ミツカド草は頑丈でな。大概の実験には耐えてくれるんだ。この間は魔術の火をつけたまま三日も燃えかすにならずに耐えたんだぞ。これを調合して七日に延ばすのが目下の目標だ」
「……恐れながら、それは何のための実験でしょうか?」
「ん? 意味なんて後からついてくるさ」

 つまり深い意味はないということです。
 何というか……やっぱりこのお父上と騎士は、どこか似ています。

「そうそう、修道院に渡すものがあるんだよ。これヴァイス、ちょっと手伝いなさい」
「何だ何だ? 重いものなら巫女には持たせられんぞ」
「そういうことではない。いいから来るんだ。アルテナさん、しばらく失礼するよ」

 ひょこりとちょっとだけ頭を下げると、お父上は騎士ヴァイスを連れて店の奥に引っ込んでいかれました。

「………」

 狭いお店にひとりきり。思わずほうとため息がもれます。
 こうしてじっとしていると、謎の道具たちが視線を持って一斉にわたくしを見つめている気がして落ち着きません。

 もう一度ため息をつき、シェーラの顔を思い浮かべました。修道院に戻ったらどうしてくれようかしら――。

「……?」

 そのときわたくしの視界の端で何かが動きました。
 わたくしははっとそちらを向きました。――ねずみの人形の山。

 人形、のはずです。
 それが一斉に、もぞもぞと動き出したのです。
 やがて、

 キーッ、チチッ、チチッ、ジジッ

(鳴いた!?)

「ひ――」

 わたくしは思わず後ずさり、どんとドアに背をつきました。
 動き出したねずみの山がもっさりと崩れ、一匹一匹が床に落ち、独立して動き始めました。

 ひげをちらちら動かし、ちょろちょろと動くその姿――もはやどこからどう見ても本物のねずみです。
 やがてわたくしは恐ろしいことに気づきました。一匹、また一匹とねずみたちは向かう先を定め始めます。このねずみたちは――わたくしを目指している!

「だ、だれか――」

 助けを呼ぼうとして言葉が途切れました。
 誰を呼べばいいのでしょう? 初めて来たばかりの、おまけに騎士ヴァイスの実家であるこの場所で。
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