託宣が下りました。
「良かった。少しは気分が晴れたか?」
「え……」
「いや、まだ少し顔色が悪いか」
わたくしの顔をまじまじとのぞきこみ、眉間にしわを寄せます。
「……化粧のせいでよく分からんな」
そう言えばまだ変装したままなのでした。いつの間にか慣れてしまっている自分がちょっと怖い。
「よし、まず変装を解こう。どのみち今日はもう出かける予定はないからな」
「え――」
ウォルダート、と騎士は彼を呼びました。
「彼女の化粧を落として着替えさせてくれ。気張らず楽なかっこうで――ああそうだ、この間仕入れた修道服にしよう」
「しゅ、修道服……?」
「ん? いやもしも修道女をやめても巫女ならあの格好をしたがるんじゃないかと思ってな」
「………」
や、優しいのかもしれませんが……
何だか、目のつけどころがおかしくないですか? この人はわたくしが年中修道服でいても許すつもりなのでしょうか。
「かしこまりました」
ウォルダートさんが「どうぞこちらへ」とわたくしを促します。
「よろしく頼む。終わったら例の部屋へ案内してくれ。俺もそこで待っている」
そう言って、騎士は一人建物のどこかへ消えてしまいました。
(騎士……)
彼がいなくなると、急に心細さが襲ってきました。
思えばお屋敷に入ってからずっと彼はわたくしの手を引いてくれていたのです。見知らぬ豪邸の中にいる不安を、それが和らげてくれていたのは間違いありません。
今は空になった手を見つめます。まだ、彼のぬくもりが残ってる――。
ウォルダートさんがふとわたくしの顔を見つめ、
「……変装なさっているのですね。素顔を出せないのはさぞかしおつらいでしょう」
「い、いえ、そんなことは……」
慌てて否定すると、白髪交じりのウォルダートさんはふんわりと微笑みました。
「この家では隠すことは何もありません。あなた様の家でございます。どうぞ、そう思って楽になさってください」
「―――」
「それでは、参りましょうか」
うやうやしく礼をして、先を歩き出すウォルダートさん――。
わたくしはその細い背中を見つめました。
彼が優しいのは、騎士が優しいからなのでしょうか。騎士はいったい、この家の人たちにわたくしをどう説明しているのでしょう。