託宣が下りました。
そして受け取った手紙を開く彼――。
その背中を、わたくしはじっと見つめていました。
「………」
今の態度は、どういうこと――?
わたくしの胸に疑念の渦が巻き起こりました。
例の噂を、わたくしは信じないことに決めました。でもあの噂が根も葉もないものならば、なぜ彼は今動揺したのでしょう?
まさか――まさか本当に、
(王女様から逃げるためにわたくしに……?)
「……巫女」
騎士がくるりと振り向き、わたくしの元へ戻ってきます。
そして、言いづらそうに口を開きました。
「悪いが……この後この家に客人が来る。あなたはちょっと別のところへ移動してもらえるか」
それは。
それは王女に関する客が来るから、わたくしにこの家を出て行けということ。
『あなたの家だ』とまで言ったこの家を、出て行けということ……。
「―――」
冷静に考えれば、当然のことだったでしょう。今のわたくしが王宮の人物と顔を合わせるのはうまくありません。
ですがこのときはそんなことは考えていられなかった。ただ、この家を離れろと言われたことの意味だけを深く考えすぎてしまった。
一度始まってしまった思考は、止まらなかったのです。
「分かりました。出て行きます」
わたくしはすっくと立ち上がりました。そして迷わずドアの方向へと足早に歩き出しました。
「待て。変装せずに隠れられる場所を今手配する――」
「いりません」
「巫女?」
「このままで結構です!」
そうしてわたくしは駆け出しました。逃げるように廊下へと。
「巫女!」
背後から彼の声が追いかけてきます。磨き抜かれた家に彼の大きな声はよく響きました。しつこいほどに背中にまとわりついて消えません。
あるいは、わたくし自身が消えてほしくないと願ったのでしょうか――。
流れは変わってしまいました。家の玄関に向かって走っているうちに、わたくしの体から彼のぬくもりはすっかりなくなってしまい……、
途中すれ違った使用人たちも誰一人わたくしを止めません。
わたくしは一人きりで、家を飛び出したのです。