託宣が下りました。

 雨のそぼ降る屋外――。

 腕で顔をかばいながら空を見上げれば、先の見えない灰色の雲が広がっていました。

 わたくしはやみくもに曇天の下へと飛び出しました。ずぶ濡れになることなどお構いなしでした。そんなことよりも、一刻も早くこのお屋敷を離れたかった。

 ――彼が追ってこない、その事実から逃げ出したかった。

 ふらふらと足を踏み出したとき、遠くから馬車の音が聞こえてきました。泥水を跳ね飛ばす音が徐々に近づいてきます。わたくしは焦りました――表からは出て行けない。



 次に気づいたときには、お屋敷の裏を抜け、一人で裏道を放浪していました。

 まったく知らない土地です。おまけに来たときとは違う道に入ってしまったので、もはやまわりが異世界にしか見えません。

 どうやらこのあたりは別荘地のようです。建物と建物の間が広く、そこに住む人々の精神的余裕を表すようでした。

 家畜を屋内へ移動させようとする使用人さんの姿がときおり見える以外は、ほとんど人がいません。

 雨にかすむ別荘地は灰色がかって、外にいる人の少なさをいっそう際立たせます。

 それでも建物の中にいる人々は温かく団らんしているのでしょう。そう思うと、しずくの冷たさが身に沁みました。



 雨宿りのできる場所を探さなければ――。

(たぶんこっちの方角から来たはず……)

 頼りない記憶を支えに歩き続けました。

 やがて建物の数が増えていき、わたくしの心に希望がさしてきました。見覚えのない場所には違いありませんが、雨宿りする場所なら見つかりそうです。

 顔からしたたる水を腕で拭い、道のひとつに入りました。
 真っ先に目にとまったのは宿の文字。

 大喜びで戸を叩きました。開けてくれたのは優しげな顔立ちの年配の女性。ずぶ濡れのわたくしを見て、「まあまあ」と心配そうな顔をします。

「若い娘さんが何をしているの。今タオルを持ってくるからね」

 宿の中に招き入れられ、大きなタオルで豪快に顔や髪を拭かれます。わたくしの胸にはほんわりとした火が灯り、女将さんの手が触れるたび、内側から暖まるようです。

 けれど――。

「おや」

 丁寧に髪にブラシを入れてくれていた女将さんが、ふとまじまじとわたくしの顔を見ました。

「あなた、ひょっとして……星の巫女の?」

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