託宣が下りました。

「こんにちは、蜂蜜酒のお届けに……」

 言いかけた挨拶が途中で止まります。
 新しく入ってきた人物の視線が、わたくしの上で()まっていました。目を丸くし、そして――次には眉をつりあげて。

「何をしているの! どうして化粧を落としたのよ……!」
「マ、マリアンヌさん……」

 変装のためのお化粧をほどこしてくれたマリアンヌさん。腕に大きめの酒瓶を抱え、雨よけのフードを下ろしながらつかつかとこちらへやってくると、女将さんとわたくしを交互に見ます。

「女将さん。この子が何か?」
「ああ、あなたも知ってるの? この巫女様、雨の中ずぶ濡れでいたからね、泊めようと思っているんだけどいいっていうのよ」
「ずぶ濡れ――」
「あなたからも大人しく泊まるように言ってやってよマリアンヌ。そろそろ暗くなり始めるし、明日帰ればいいじゃない」

 わたくしは焦ってマリアンヌさんに目で訴えかけました。
 女将さんはたしかに親切です。ただその親切の中に、それ以上の『好奇心』が隠せていないのです。

 もしも泊まったならきっと質問攻めにされる。わたくしにはとても耐えられそうにありません。

 マリアンヌさんは――、

「……いいえ女将さん。この子はうちで預かるわ」

 と、女将さんに向き直り、にっこりと微笑みました。

「でもマリアンヌ」
「この子知らない人の前ではひどく緊張するみたいなのよ。修行が足りないとは思うけど、許してあげて」

 言いながら女将さんに「はいこれ」と酒瓶を押しつけ、

「それじゃあこの子の世話をしてくれたお礼に、今回のこのお酒のお代はいただかない。本当にありがとう」
「いいの?」

 女将さんの顔が嬉しそうに笑みほころびました。

 それからもマリアンヌさんは巧みな話術で女将さんを説得し、結局わたくしは彼女について外に出ることになったのです。

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