託宣が下りました。
マリアンヌさんは本当に憤ってくださっているようでした。そのことに、わたくしの胸がちくりと痛みました。
「違うんです……わたくしが勝手に飛び出してきてしまって」
「どういうこと?」
「………」
言葉に詰まるわたくしを見て、マリアンヌさんが片眉を上げます。
何かを言いたげに唇を動かした彼女ですが、やがてその唇からは盛大なため息だけが漏れました。
「……もう少しいったところに馬車を待たせているの。乗せてあげるわ。行くあてはある?」
無言を返したわたくしに「それじゃあ」と彼女は快活な笑みを浮かべます。
「これから私の行くところに一緒についてらっしゃいな。大丈夫、顔を見られてもいいところよ」
お得意様にお酒などの飲み物を運び込むのがマリアンヌさんの毎日のお仕事だそうです。今日は目的地が比較的遠方なうえ、雨が降っているので馬車を使っているとのこと。
「馬車は高いから滅多に使わないのだけどね。今日はちょうど良かったわね」
荷物からタオルを取り出し、自分の体だけでなくわたくしの体まで拭いてくれたマリアンヌさんは、ついでに乱れていたわたくしの髪を整えてくれました。どうやら根っから身なりを気にする人のようです。
馬車がゆっくり走り出します。静かに回る車輪の音に、まとわるつくように混じる水音。当分雨は止みそうにありません。
「で、どうしてあの男の家を飛び出してきたりしたの。またあの男が無神経なことでもした?」
また、というところがミソです。わたくしは苦笑しました。
「いいえ。そういうことではなくて……」
「それじゃあどうして?」
「……わたくしが、嫉妬してしまって」
そう――結局そうなのです。
言ってしまってから、わたくしはそれを心の中で認めました。
嫉妬している。王女エリシャヴェーラ様に。
どう考えても、もうそれしか結論はありません。
わたくしは「騎士と王女様にまつわる噂を知っているか」とマリアンヌさんに尋ねました。
マリアンヌさんは奇妙に唇を歪めました。
「あの馬鹿馬鹿しい噂ね」
「馬鹿馬鹿しい……」
「そりゃあそうでしょう。まさかあなた、あれを信じているの?」
言われて、わたくしは詰まりました。
信じるわけがないと言い切りたかった。特にマリアンヌさんの前では。
でも――。