託宣が下りました。
「……信じたつもりはなかったんです。でも、心がついていかなくなって」
正直にそう告げました。
マリアンヌさんは、思いがけず「そう」と優しい声音で言いました。
「そんなこともあるわよね」
マリアンヌさん――。
わたくしは彼女をまっすぐ見つめます。けぶるような長いまつげが澄んだブルーの瞳を飾っていて、今は考え深げに伏せられています。
通った鼻梁は意思の強さを示すようで、引き締まった唇は固い志を表すよう。わたくしなどより何倍も何倍も魅力にあふれた人なのは間違いありません。
(……この人も、かつて騎士を好きだった)
いいえ、たぶん今も。騎士を前にした彼女の様子――そしてわたくしに対する彼女を見ていると、そう思います。
恋敵であるはずなのに。
それなのにマリアンヌさんはわたくしに優しくて。
――そのことが、なおさらつらい。
しばらく雨粒が幌を叩く音だけが響きました。ほとほとと鳴る音の間に、居場所を見失ったわたくしの不安がころころと転がっています。
「アルテナ。あなたは、ヴァイスとちゃんと話をしたの」
マリアンヌさんは目を上げました。
澄み切った青。あまりの美しさに、目をそらすことができません。
「いえ……」
「話をする前に逃げ出してきたわけね」
「………」
優しげな響きなのに、刺すような鋭さ。答えることができない。
マリアンヌさんはじっとわたくしを見つめ、
「あの男相手じゃ話をするだけでもそうそううまくいかないのは分かるけれど。でもね、これだけは自覚なさい。――あなたはあの男が唯一まともに向き合う気になった、恵まれた女なのよ」
「向き合う……気に」
雨の音が遠くなる。マリアンヌさんの声しか聞こえなくなる。
頭の片隅に騎士の顔がちらついています。王女の名を聞いて、動揺した彼の様子。
……逃げ出さずに話を聞いていれば、何かが違った?
馬車ががたんと石に当たって揺れました。わたくしは、はっとして固くなっていた呼吸を緩めました。
マリアンヌさんが視線を窓外に向けました。
「もうすぐ着くわ」
つられてわたくしも窓の外を見ます。人の少ない街角。わたくしには見覚えのない景色に、雨がしょうしょうと降りしきる――。
「どこへ?」
今さらながら尋ねると、マリアンヌさんは楽しげに口元を微笑ませました。
「孤児院よ」