託宣が下りました。
聖ミラエル孤児院――。
都郊外にぽつんと存在する、小さな施設です。わたくしも名前は聞いたことがありますが、実際にここへ来たことはありませんでした。
というのも、ここは以前から修道院の手を拒み続けてきたのです。
「だってねえ、めんどくさいのさ修道院のお偉方と話すのは」
仮にも修道服を着ているわたくしの目の前で、その女性はそう言ってあごをそらしました。
「タダで手伝いに来てくれるのはいーけど、あのカタッ苦しい態度はどうにかなんないのかね。なんせ時候の挨拶、そうあれあれ、あれもう催眠術の域だろ何度寝るの我慢したことか――」
「言い過ぎよ院長」
マリアンヌさんが呆れた様子で腰に手を当てました。その視線を受け、三十代ほどの女性――院長様は「けっ」とわたくしから顔をそらしました。
「だからあんたのことだってよそに言ったりはしないさ。そんな面倒くさいこと」
「―――」
わたくしはようやく動揺から立ち直り、笑顔を作りました。「ありがとうございます」と頭を下げると、「そーゆートコロがいらないんだよッ!」と院長様はべしべしテーブルを叩きました。わたくしはひえっと肩をすぼませ、そそくさとマリアンヌさんの陰へ移りました。
波打つ黒髪も迫力のある院長様。お名前はリーデル様とおっしゃるようですが、誰一人その名では呼んでいません。馬車の中でマリアンヌさんが話してくれたところによると、元は孤児で、この聖ミラエル孤児院の先代院長に拾われたとのことでした。その先代様がお亡くなりになったのは半年前だそうです。
この孤児院を作ったのは先代様です。聖とつくからには星の神をたたえているのは間違いありませんが、修道院とのつながりは一切断ってきたのです。理由までは、わたくしには分かりませんが……。
「まったく。マリアンヌ、面倒なのを連れてきたねぇ。こちとら忙しいンだよ」
ぶつぶつと言うその動作も態度も横柄ではありますが、軽やかに動く腕や指先はしなやかで美しく、瞳はふしぎと力強い活力に満ちています。マリアンヌさんとは違った意味で目を奪われる御方です。