託宣が下りました。
「天国のお母様お許しください。ソラは鬼になります。お兄ちゃんに近づく悪女を今ここで祓います」

 突然上空に顔を向けて祈る妹さん。お名前はソラさんと言うのでしょうか。

「――?」

 わたくしはふと、その言葉の内容が気になりました。
 不謹慎とは思いつつ……おずおずと尋ねてみます。

「あの……お母様は?」

 すると、ソラさんはわたくしをにらみつけました。

「母は五年前に魔物に殺された。それが勇者一行が旅立つきっかけだった。この国の常識、そんなことも知らないの」
「――」

 五年前と言えば、わたくしはまだ隣町の実家で暮らしていました。だから王都のことには詳しくありません。
 けれど、

(そう言えば……勇者様の近しい人が亡くなって、それが魔王討伐のきっかけになったって)

 シェーラから、そんな話は聞いていました。
 勇者様にはご両親がいません。だから、幼なじみの騎士の親御さんが、親代わりのようなものだったとか。

 でも彼女はそれ以上詳しく話してくれませんでした。気まぐれなのか、何かを遠慮していたのか――。

「そう……」

 わたくしは急激に心が落ち込むのに気づきました。

(騎士ヴァイスにお母上はいない。……そんなことも知らなかった)

 それどころかわたくしは騎士のことをほとんど知りません。
 当然と言えば当然です。知ろうと思うどころか、縁を切ろうとしてきたのですから。

 二度と顔を見たくないと何度思ったことか。そんな相手の事情など知る必要はありません。知ってはいけません。
 知れば――情が湧きます。

(あ、あの人だって、わたくしのことをろくに知ろうとしていない。修道院のしきたりさえ知らなかったんだから、おあいこで――)

 ……いつの間にか。
 言い訳じみた言葉ばかり連ねていることに気づき、わたくしははたと止まりました。

 そして、さらに落ち込みました。――相手をおとしめてまで、なんてみっともない心の動き。

 もう認めてしまいましょう、罪悪感を覚えている、と。
 たとえ一方的につきまとわれただけとは言え、このひと月、ずっと関わってきました。その相手のことをかけらも知ろうとしなかったのは……やはり少し、少しだけ悪かったような気がします。

 知らず、ため息が出ました。
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