託宣が下りました。
 すべて終わったというのに、肌がぴりぴりと緊張を訴えます。
 なぜか――『恐い』という思いが、消えません。

「……?」

 理由をさがして視線をめぐらせ、はたと騎士に目を留めました。

「大丈夫か? 巫女よ」

 来るのが遅くなってすまない、と騎士ヴァイスは言いました。

「なにぶん狭い屋根裏を片付けていて、すぐに出てこられなかったものだから……巫女の悲鳴も聞こえてはいたのだが」
「……」

 ねずみに囲まれていたときのことでしょうか。今思い出すと恥ずかしくて顔から火が出そうです。

 それはともかく……

 騎士ヴァイスの姿。剣を片手に、もう片方の手に妹さんを抱えて、すらりと立っています。その頼もしさはいかにも歴戦の戦士。ふつうなら見とれてもいいくらいだと、わたくしでも思います。

 それなのに――恐い。

 そうでした。わたくしは『力』が恐いのです。

(何を言っているの。騎士は助けてくれただけなのに)

 自分を叱咤し、勢いをつけて立ち上がろうとしたとき、足首に痛みを感じました。

「痛っ」
「……? 巫女、足に怪我をしているのか?」
 騎士はソラさんを床におろし、しゃがみこんでわたくしの足首に触れようとします。「今手当をするからな。じっとしていてくれ」

 わたくしは反射的に避けかけて――ぐっと力をこめ、それを我慢しました。
 助けてもらったあげく、厚意までむげにしては、わたくしの心が罪悪感でつぶれてしまいます。

 騎士の手当は迅速でした。包帯も薬も持ち歩いていたようです。そういうところはさすが勇者一行の一員でしょうか。それとも騎士のたしなみでしょうか。

 無骨な手が手早く包帯を巻いていく――。思いがけない器用さに、わたくしは見入ってしまいました。

(彼の手は、熱い)

 触れる指先からそんなことに気づきます。手なら今までにも触ったことがあった気がするのですが――記憶から抹消してしまったのでしょう。

 体温が高い。何だか騎士らしいです。

「よし! ひっかき傷とは言え、あんまり無理して歩かないようにな?」

 そう言って、騎士は手を差し出しました。
 わたくしは――だいぶ逡巡してから、その手を借りて立ち上がりました。

 騎士のひどく満足そうな顔。……何だか、負けた気分になります。
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