託宣が下りました。
「それにしても……一体何をしているんだソラ。お前はまだ見習い人形遣いだろう」

 わたくしから手を放した騎士は、打って変わって厳しい声でソラさんに言いました。

「ほら、巫女に謝るんだ」
「……」
「ソラ!」
「だ、だって」

 ソラさんの目にみるみる涙がたまっていきます。やがて火のついたように泣き出した妹さんを見て、騎士はため息をつきました。

「すまない、巫女。この子はまだ泣いたら許されると思っているようなところがあって……あとでよく言って聞かせる」
「いえ……」

 ソラさんは騎士ヴァイスの足にすがりつき、泣きじゃくります。
 この懐きよう……

(お兄さんが大好きなのね。お母様代わりだったのかも)

 そうなるとソラさんから見れば、あの星の託宣は他でもない大事な兄を奪う託宣なのです。実態はともかく、わたくしは兄を奪う邪悪な存在に思えたのでしょう。

「ソラさん」

 わたくしはソラさんにゆっくり近づきました。

 ソラさんはびくっとしてますますお兄さんの足に隠れます。構わず、わたくしは目線を合わせるためにかがみ、

「心配しないでください。お兄様はどこにも行きませんよ」
「――……?」
「わたくしも結婚するつもりはありませんし。あなたのお兄様に合う人が簡単に現れるとも思えません。だからお兄様はもうしばらく独身だと思いますよ」
「待て巫女よ何気にひどいことを言ってないか?」
「気のせいです」

 げらげらと笑い声が聞こえてきました。いつの間にか奥の階段のところで、騎士のお父上がお腹を抱えて笑っています。

 わたくしたちの視線に気づき、目元を指先で拭うと、

「いやあいい! いい娘さんだ……! ぜひともうちの嫁に!」
「いえですからお断りします」
「そんなことを言っていいのかな? 薬草の代金がどうなってもよいと?」
「それとこれとは別ですので代金はいただいていきます」

 きっぱり言い切ると、お父上はますます笑いました。

「素晴らしい。もういっそヴァイスではなく私の嫁に来ないかね」
「ちょっ、親父殿!?」

 お父上の言動にわたわたと慌てる騎士は……ちょっと面白いです。騎士にも勝てない相手はいるのですね。

 騎士の新しい一面を知ること。
 ……癪ですが、少し楽しい、かもしれません。
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