託宣が下りました。
「あら、構わないでしょうそれくらい。私が命じればあの暗殺者の命くらいどうとでもなってよ」
「そんなわけには参りません。シュヴァルツ殿下のお命を狙った人間を解放するなど――」
「アルベルト」
姫君は手綱を引き締め、馬首を巡らせました。ヒヒンと馬がいななき、鼻先がアルベルト老の眼前をかすめます。
「――私の命よ」
囁くような甘い声。甘美な毒を、垂らして落とすかのような……
老兵は口をつぐみました。苦渋の刻まれた顔にのぞくのは、経験からくる諦めのような色。
わたくしは震えました。姫はいつもこうやって、臣下を従わせているのでしょうか。
命ずればそれだけで。それが、王女というものでしょうか。
「―――」
目を閉じれば妹の姿が浮かびます。ああラケシス、今ここでうなずいてしまえばあなたの命は助かるのかもしれない。でも――
「そんな取引はお断りします」
何よりも姫の思い通りになることが。
恐ろしいことのように思えたから。
「騎士もラケシスも、わたくしにとってかけがえのない人です。天秤になどかけられません……!」
この大きな壁のような姫に、気持ちだけでも負けたくない。その一心で。
馬上から嘲笑が返りました。
「つまらない女だこと」
アルベルト、と姫は馬ごと臣下のほうへ体を向けました。