託宣が下りました。

 ラケシスは残念ながら外国言語が得意ではありません。わたくしも教えようとしたことがありましたが、覚えも遅く、それに関しては多分に困った生徒でした。
 けれど殿下はそんな生徒でも、音を上げずに教えようとしてくれた――ということでしょうか。

 ラケシスは隣国の言葉で、ひとつの詩をそらんじました。

「美しい発音ですね……!」

 後ろで聞いていたカイ様が、手を叩いて賞賛しました。

 わたくしも胸がいっぱいになりました。

 ――殿下にもいいところはある。ラケシスの恋は、手のかかる息子に対する母親心のようなものとは、違うのかもしれない。
 お互いに助け合える関係なのかもしれない。

 そう――そうであってほしい。せっかく思いが繋がったのなら。

 わたくしはラケシスの手を両手で包みました。

「応援します、ラケシス。どうかぎりぎりまで諦めないで」

 『絶対に諦めないで』と言えないのは、相手が王族だからです。さすがに……一般人には限界があります。

 それでも。
 精一杯の思いをこめて。

 ラケシスはほのかに笑いました。

「頑張ってみせるよ。殿下が許してくれる限りは」

 そうしてわたくしの手を握り返し、今度は悪戯っぽく笑って。

「でもさ姉さん。私、ひとつだけ目標を達成できなかったな」
「え?」
「――結婚、するんだってね? ヴァイス様と」

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