託宣が下りました。
騎士はわたくしにじりじりとにに近づきながら、うなるようにそう言いました。
わたくしは笑っていました。後ろには高すぎる崖。人が落ちれば、まず助からない。
人が、落ちれば――
――わたくしが落ちたら、彼はどうする?
「―――!!!」
わたくしは後ろ向きのまま、崖から身を投げました。
体中にかかる落下の浮遊感。「アルテナアアアアアアアア!」叫ぶ彼の声の何と心地よいことか。
崖の下は、流れが早く深い川です。わたくしはそこへ背中から飛び込みました。
冬の冷たすぎる水が――わたくしを受け止めました。
そのとき。熱に浮かされていたわたくしの意識がほんの少しだけ目覚めたのです。
――ああ、わたくしは狂ってしまったのだと。
彼の愛情を試すために、なんて。何というとんでもないことを。沈み行く体の中で、心だけが冷静になっていく。
体の中の重みが生き物のようにうごめいているのを感じました。手足の先まで、わたくしとは違う誰かに動かされているような感覚。
直感しました。わたくしの体の中には、魔物がいる――
わたくしは魔物に取り憑かれたのです。
(……ああ、ヴァイス様)
急流に呑み込まれながら、ようやく目覚めた一部分だけの自分が、泣きそうな声を上げました。