託宣が下りました。

「クラリスの手を振り払った。反射的に見えた」
「じゃあやっぱり間違いない。魔物には治癒魔法は攻撃のようなものだから――だからクラリスは僕らに連絡をよこしたんだ」

 彼ら一行は離ればなれでもすぐに連絡が取れるように、カイの魔術によって作られた緊急連絡用の『鳥』を備えている。生み出すのにとても手のかかる術なのでカイもそうそう数が作れるわけではなく、一人ひとつしか備えていないのだが。

 クラリスがそれを、カイに飛ばした。カイはすぐさまアレスを呼び、二人でヴァイスの屋敷へと向かった――

 そのさなかに、この始末だ。本当は馬車で来たのだが、二人は馬車を乗り捨てて走ってきたのだ。

「くそっ。いったいどうして彼女に魔物が」

 ヴァイスは強く拳を握る。爪が食い込んで、血が出そうなほどに。

 アレスは崖下の下流を見ていた。

「この川の下流の、穏やかなあたりに流れ着けばいいんだが」
「至急人を手配して捜させる。魔物憑きなら、俺が追い出してやる」
「しかしヴァイス、魔物を追い出すには弱点が分からないと」
「分かっている。どの部分から魔物が入り込んだのかさえ分かれば何とかなるはずだ」

 実のところそれはすべて希望的観測だった。魔物憑きは人間の体をひどく消耗させる。長時間魔物を取り憑かせておけるかどうかは、本人の体力次第なのだ。

 残念ながらアルテナは女の身だ。シェーラの父親のときほどには、もたないだろう。

「急ぐぞ、二人とも!」

 三人は身を翻した。アルテナを捜索するための、人間を手配するために。



 アレス一行は全員顔が広い。場合によっては王宮さえ動かせるのが彼らである(まともな方法ではないが)。

 王宮の兵士をも駆り出して、彼らはアルテナをひたすら捜した。
 修道院の人間も協力してくれた。何より修道長のアンナがアルテナの身を案じたためだ。
 アンナはアルテナも魔物憑きになったと聞き、苦悩に満ちた顔をした。

「ああ、なぜそんな……シェーラだけでも大変なことですのに」

 しかしアルテナはシェーラと取り憑いた魔物が違う。エリシャヴェーラ王女とも違う。町で報告されているどの魔物とも違う。

 アルテナだけが違うのだ。

 ヴァイスもあの川の下流に沿って歩いていた。川にざぶざぶ入り込み、目を皿のようにして捜すが、アルテナの気配はない。

 カイもヴァイスについてきていた。アレスは別行動だ。

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