託宣が下りました。
「王宮に集まった学者どもはなんて言ってる?」
ヴァイスはカイにそう尋ねる。
カイは重苦しい声で「実は」と口を開いた。
「彼らの様子を見るに……どうも学者は、こうなることが分かっていたみたいなんだ」
「なんだと?」
「と言っても、硬化魔物のほうの話だよ。彼らは、エリシャヴェーラ様に魔物が取り憑いたと聞いてお決まりの驚きかたをした。そして、その処置の手配が異様に早かった。姫はもうじき魔物から解放されるよ」
それを聞いてヴァイスは舌打ちする。アルテナは窮地だというのに、あの姫は助かるのか。
「怪しいのは学者たちということか」
「……断言はできないけど」
カイとしても下手なことは言えまい。さすがに、規模が大きすぎる――
「学者どもに至急町の取り憑かれた連中の処置をさせないとな。そのあとで締め上げる」
「うん……」
気を吐くヴァイスに対して、カイは煮え切らない様子だった。
「どうした? 気になることでもあるのか?」
川から上がったヴァイスが尋ねると、カイは一瞬、言葉に詰まったようだった。
「なんだ?」
「……その」
ヨーハンさんが――と。若い魔術師はようやくその名を絞り出した。
「ヨーハンさんが、見つからない。王宮に招集されていてもおかしくないのに、いない。王都にいるはずなのに」
「あいつのことだ、どこかで魔物を追いかけてるんじゃないのか?」
アルテナがからむとヨーハンに敵愾心を抱くヴァイスだったが、ヨーハン個人を嫌っているわけではない。
むしろ一度は仲間だった相手だ。何か困ったことがあるなら助けてやりたいと思うていどには、親愛の情がある。
カイは首を振った。
「まったく気配がないって、そのほうがおかしいでしょう? 最初こそ目撃証言があったけど、ぱったりなくなったんだ。まるで人を避けてるみたいに」
「………」
「ヴァイス! 何か見つかったか!」
駆けてきたのはアレスだった。アレスは王宮の兵士たちに指示を飛ばす役割をしていたのだが、自分がいなくても大丈夫と判断したのだろう。
ヴァイスはただ無言で、沈痛な表情だけで応えた。
「……そうか」
アレスの声も自然と暗くなる。
場の空気は雨の降る直前のどんよりとした曇り空のようだ。外はこんなにも晴れて明るいというのに。
「アルテナ様のことだから、人を傷つけるほうには走らないと思うんだけど」