託宣が下りました。
カイが空を見上げ、心配げにそんなことを言う。
ヴァイスは黙っていた。アルテナは自分の首をしめようとした。彼女の中には、ある一定の殺意がある。
それが無差別に他人に向けられるものかどうかは分からないが――
新たな声が割って入ったのは、そのときだった。
「……アルテナさんの行動を予測してはどうかな」
「親父殿?」
ヴァイスは驚いて、自分の父親を――否、ぞろぞろとやってきた父と妹たちを見る。
父アレクサンドルにはたしかに人手を貸してくれと通達していた。しかし妹たちは別だ。
「なぜお前たちまで来たんだ……」
「人手は多いほうがいいじゃないか、兄貴」
「下手に増えられても邪魔なんだがな」
「失礼だなあ。ほらソラ、何とか言ってやりなよ」
「私のネズミで巫女を見つけてみせる!」
山ほどのネズミを入れているらしい革袋を背負ったソラは、胸を張った。
意外だった。ソラは家で泣いているかと思っていたのだが。
まあそれはともかく。
「ネズミはやめとけ。川に入ったら全部壊れるだろう」
「川とは限らんだろう?」
と、そう言ったのは父のほうだった。
「アレクサンドル様、それはどういった……?」
カイが慎重にヴァイスの父に尋ねる。
いついかなるときもひょうひょうとした父は、あごを撫でて言った。
「もう川から上がっている可能性のほうが高いという話さ。何せヴァイスが追いつけんほどの脚力をも備えたのだろう。運動能力が跳ね上がっていると思って間違いない。そうなれば、長々と川にいるとは思えん」
「………!」
それは盲点だった。もう川から上がっている?
だとしたら――アルテナはどこへ?
「彼女の行きそうなところを想像するんだよ。まず第一にヴァイスの元へ帰ってくることだが……どうやら今のところその気配はないな」
「いやしかし、俺のところに戻ってくるなら……屋敷かもしれない」
屋敷に遣いを出してたしかめよう。ヴァイスがそう決心したそばで、アレクサンドルはさらに続ける。
「第二に、修道院。第三に、実家。手配はしてあるかね?」
「修道院はしてある。ご実家は……まだだ」
このていたらくをあの町長一家に伝えるのは忍ばれた。余計な心配を生みかねない。ただでさえあの一家は今ラケシスのことで手がいっぱいなのだ。
しかし。アルテナが行く先として有力候補なのはたしかだった。
「……ご実家に連絡しよう。急ぎの馬を出す」
「そうしなさい。さて、ヴァイス」
かつて天才と謳われた父は、のんびりとした顔で息子を見やる。
「もうひとつの可能性を考えてはいるかね」
「もうひとつの……? それは何だ、親父殿?」
「アルテナさんの意識が『正常に』残っている場合……それを考えてはいるかね」
「―――」