託宣が下りました。




 アルテナの捜索は三日三晩休みなく行われた。

「お前は少し休んだほうがいい」

 アレスにそう言われ、ヴァイスはもちろん嫌がった。アルテナが危険なこのときに、悠長に休んでいられるわけがない。

「そのまま活動を続けたらお前、さすがに倒れるぞ」

 そもそも三日三晩眠らずにあちこち動き回って過ごしている時点で驚異的なのだ。アレスやカイはちゃんと休みを取っている。

「アルテナが見つかったときに、お前が倒れていたら元も子もないだろう?」

 そう言われ、ヴァイスはしぶしぶ中央公園のベンチで休むことにした。

 中央公園では今、アレス像に花輪を備えるという珍妙な催し物が流行っている。それは今でも変わらず、下手くそな造りのアレス像の足下にはうずたかく花輪が積まれている。

『勇者様ご一行に力を』

 そんな思いで捧げられている花輪だという。平素ならば「任せろ!」と元気百倍に気持ちを受け取ったであろうヴァイスだったが、今はただただ滑稽だった。

(俺は……愛した(ひと)一人護れん男だ)

 今日は一段と冷える日だ。外套の前を合わせながら、「アルテナは今ごろ寒がっていないだろうか」と思いをはせる。

 彼女は寝間着のまま外に飛び出して、川に落ちて、そのまま行方知れずなのだ。魔物憑きでなければ間違いなく凍えるか溺れるかで死んでいる。

 クラリスが用意してくれたハーブティーを手に、ぼんやりと公園を眺める。

 子どもが多かった。公園だから当たり前だ。

 一応アルテナ捜索は公にはしていないのだが、知っている者は当然多く、ヴァイスの顔を見ると神妙な顔つきで頭を下げてくる。慰めているつもりだろうか。

(早く婚儀を挙げて……魔王討伐に出るつもりだったのに)

 人々が行き交うのを見ているのも苦痛だった。彼は顔を伏せた。
 温かいハーブティーの湯気が、鼻に当たった。

「うふふ、ヴァイス兄」

 双子たちが愉快そうにまとわりついてきて、兄の沈痛な顔を覗く。

「うふふ、あのときみたいね。凱旋式で失敗したときの」
「……お前たち、あっちへ行ってろ」
「うふふ。らしくなく落ち込んでいるのもあのときそっくり」
「うふふ。何ならあのときみたいにカイに頼んで女性に変身する?」
「あっちへ行け!」

 らしくもない怒鳴り声が出た。双子はこたえた様子もなく、きゃっきゃと言いながら逃げていく。

(――俺らしくないだと?)

 ああそうだ、たしかにらしくない。
 だが――自分にだって落ち込む時くらいあるのだ。誰もが自分を、感情が鋼鉄でできた鎧人間か何かのように言うが、そんなことはまったくないのだ。

(――()()()()と同じ、か)

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