託宣が下りました。
時は夏真っ盛り。さらに人が多くて暑さも倍増している気がする。
やがて王都の中心部に飽きて、郊外を歩いた。こういうところは若い頃アレスと二人でよく冒険に来たものだ。「王都の人間たる者王都のすべてを知るべし」とかなんとか理屈をつけて、アレスを振り回したのをよく覚えている。
アレスも大概お人好しがすぎる。まあアレスも色々あって、本当の親友はヴァイスぐらいしか作れなかったので、利害の一致とでもいうべきだろうか。
それにしてもこの辺りに来るのは久しぶりだった。ここにはたしか――
孤児院があったはず。
孤児院。それを思い出して、ヴァイスの足は止まった。
「………」
逡巡し、やっぱりやめようとくるりと来た道を戻ろうとする。
が、
「こら! 待ちなさい……!」
ふと――
女の声が聞こえて、ヴァイスは振り返った。
少し離れたところにある孤児院の敷地から、元気よく飛び出してきた子どもがいた。男の子だ。腕白を絵に描いたような子で、弾けんばかりの明るさを総身から発散させながら、勢いよく走ってくる。
ちょうど、ヴァイスのいる方向に。
「待ちなさい!」
追いかけているのは修道女のようだった。服装が修道服だ。髪も隠し、顔しか見えない状態の女は、どうやら足が遅いらしい。幼い子どもにさえ追いつけそうで追いつけていない。まあそもそも修道服というのは走るのには向いていないだろうが。
それについて何を思ったわけでもなかった。
ただ、孤児院の子どもが勝手に孤児院から離れるのはよくないと思っただけだ。
だからヴァイスは――
ひょい、とその子どもを受け止め軽々持ち上げた。
「わ! 誰だよねーちゃん! 放せよ! 放せ!」
……ふむ。今の俺はねーちゃんと呼ばれるのか。新鮮だ。
そんなことを思いながらも暴れる少年を肩に抱え上げる。女になったからと言って、腕力まで衰えたわけではないようだ。カイの術は妙なところでしっかりしている。この分ならこの体のまま魔王討伐できるのではないだろうか。
……なんてことを考えていたら、修道女が追いついた。
「す、すみません……! 止めてくださってありがとうございます!」
ヴァイスはその修道女を見下ろした。今のヴァイスも背は高いので、女と身長差があった。
髪の色はよく分からないが、顔は見える。いかにも地味で、まるで全身で『私は修道女です』と宣言しているかのような。
おまけに瞳の色は黒だ。味も素っ気もない。
普段クラリスやマリアンヌや、その他王都を華やがせる美人たちをよく知っている身とすれば、正直目の前の女は町ですれ違っても気づかないレベルの女だ。
なのに――
ヴァイスはその女を見つめずにはいられなかった。
女の黒眼の奥に、星が見えた気がした。
――彼の知らない何かがそこにある。ヴァイスはそのとき、直感していたのだ。