託宣が下りました。
「あの、もう大丈夫なので、その子をおろしてあげてくれますか?」
と、その修道女は言った。
優しいしゃべり方をする女だった。丁寧で、嫌みがない。
ヴァイスは肩で暴れている子どもを一瞥し、
「おろしたら大人しくこの人の言うことを聞くか?」
「き、聞く! 聞くから放せー!」
「……反省が足りんな。もっと丁寧に言え」
子どもはしつけが大切だ。ヴァイスは厳しくそう言った。
目の前の修道女が驚いたように目を丸くする。そんなことは構わず肩の子どもの背中をばしんとてのひらで一発。
「痛い! 馬鹿力の化物女!」
「―――」
その言葉がふいにヴァイスの胸にささったトゲを刺激する。
ヴァイスはそれを押し隠した。今はそんなことはどうでもいい。どうでもいいんだ。
「言うことを聞くのか、聞かんのか。はっきりしろ」
「聞くってばー!」
「約束だな?」
「約束する!」
そこにきてようやくヴァイスはゆっくり子どもを肩から下ろした。
子どもは泣きべそをかいて、修道女にすがりついた。
「このねーちゃん恐い。恐いよー」
ふん、とヴァイスは腕組みをして鼻を鳴らす。
「この程度で恐がっていて、将来いい男になれるものか」
――半分はやけくそで言っているのだ。分かってる。
子どもは修道女のスカートの後ろに隠れ、顔だけ出して「あかんべ」をしてくる。
「反省が足りんな……」
ヴァイスは一歩踏み込んだ。
びくりと子どもが修道女のスカートを掴んだ。
「あの……待ってください」
口を挟んだのは、件の修道女だった。
ヴァイスに向かって、なぜか深々と頭を下げ、
「この子が言ったことはお詫びします。後でわたくしがよく言って聞かせますので……どうか」
これ以上は責めないであげて――
「………」
ヴァイスは口をつぐんだ。
何だか背中がむずがゆい。手の届かないところにあるかゆさだ。言いたいことがある気がするのに、何も言葉が出てこない。
「……そうか」
それだけ言って、身をひるがえそうとした。もうここに用はない。
そのとき、あろうことか腹がぐるると鳴った。
(……なんてこった。そう言えば昼飯を食べていない……)
女の姿で歩き回るのが楽しすぎて忘れていた。途中の酒場で飲んでは来たが……食べてはいない。
くす、と笑う声が聞こえた。例の修道女の。
「……軽く食べていかれますか。少しは蓄えがございますので……」
「孤児院に蓄え?」
「先日勇者アレス様にいただきました。だから、お気にせずに」