託宣が下りました。
アレスのやつめ、こんなところでポイントを稼いでいたのか。
と言いつつも、ヴァイスも孤児院に寄付をするのは好きなほうだ。気が向かない限りはしないのだが。
「さあ、どうぞこちらへ」
黒眼の修道女はにこやかにヴァイスを孤児院へ案内する。
――腹が減っていたのはたしかだ。だが金には困っていないのだから、食うだけなら町の中心部に戻ればもっとうまいものが山ほど食える。
それなのに、この修道女の言うことを聞いてしまったのはなぜだったのか――
修道院はごく普通の平屋だった。ただ建物の広さのわりに、子どもがごくわずかしかいないようだ。
ここに修道院があることは昔から知っていたが、記憶より規模が小さくなったような気がする。
「この修道院は、経営がうまくいっていないのか?」
まどろっこしいことの嫌いなヴァイスは直球で聞いた。
すると煮込みスープを運んできた修道女は、困ったように笑った。
「……先代様がお亡くなりになりまして。少し寄付が減ったのです」
「……そうか」
だからアレスが手助けをしようとしたのか。ヴァイスは納得した。
「こちらをどうぞ。お口に合えばいいのですが」
修道女はヴァイスの前にスープを置く。量は普段ヴァイスが食べている量の半分もなかった。ヴァイスは遠慮なく「少ないな」と言った。
修道女は慌てた顔をして、
「申し訳ございません、女性のかたにはこれくらいかと……す、すぐ別のものをお出ししますね」
「いや、待て。今のは嘘だ」
そう言えば自分は今女だった。その上ここは孤児院なのだから、そうそう大量に出てくるわけがない。
「これで十分腹はふくれる。気にするな」
今さら言っても遅いが。ヴァイスは昔からしばしばこうして他人の顔色をおかしくしてしまう。
案の定、修道女はしょぼんと肩を落とした。
黒い瞳が伏せられて、よく見えなくなった。それをなぜか残念に思ったヴァイスは、
「あんたは――」
とスプーンを握りながら修道女を見上げた。「修道院から、出向してきているのか」
「出向というほどのことではありません。今日は、この施設の順番だったので」
話が変わったことに安心したのか、彼女は顔を上げ、にっこりと微笑んだ。「修道院の者はあらゆる孤児院や救貧院に行くのが使命です」
「修道女とは暇なものなのだなあ」
そう言って、スープを一口含み咀嚼する。
……嫌みのつもりで言ったのではない。単に素直にそう思ってしまっただけだ。
目の前の、黒眼の修道女は迷ったように視線を揺らし、
「元々、それがわたくしたちのお役目ですので」