託宣が下りました。

「役目? 修道女は星の巫女になるために修行するのだろう? ――ああ、こうして施しをするのも修行の一環だとかアレスが言っていたか」

 自分で言って自分で納得していると、修道女は目をぱちくりさせた。

「アレス様をご存じなのですか?」
「ご存じもなにも俺は――」

 言いかけて口をつぐんだ。
 ……女の姿で正体をさらしても、信じてはもらえまい。

「ええと、アレスとは旧知でな」

 そう言うと、女は嬉しげに両手を組み合わせ、

「まあ。素晴らしいことですね――アレス様に、本当にご立派なことを成されましたとぜひお伝えくださいませ」
「………」

 ヴァイスはふしぎに思って女を見上げる。

「伝えるも何も、今ならいくらでもアレスに声をかけられるぞ? 毎日凱旋パレードをしているだろう」

 そう、そのおかげで律儀にパレードに出席しているアレスやカイなどは疲れ果てている。ヴァイスやヒューイやクラリスやもう一人などは、適当にさぼってたまにしか参加しないのだが。

 魔王討伐が成され、王都に戻って早々王宮で行われた凱旋式――王から名誉と褒美を与えられた式。
 そしてその後、毎日行われている凱旋パレード。
 もう二週間ほどになるが、町はいまだお祭り騒ぎだ。

 黒眼の女は微笑んだ。

「実は先ほど逃げだそうとした子は、パレードを見に行こうとしたのですよ」
「なんだ。見せてやれば良かったのに」
「孤児院の子は全員揃って決まった時間に行くことにしています。抜け駆けはいけません――今の町の状態では、迷子になりますし」

 それはたしかだ。町はいつも以上に人でごった返している。

「なるほどなあ」

 またスープをひとすくい。味は薄いが、具材が豊富でなかなか悪くない。肉が入っていないのが物足りないが。

「それじゃああんたは? あんたはパレードを見に行かないのか」
「………」
「ああ、それとももう散々行って見飽きたか?」

 すでに二週間経っているのだから、騒ぐのに飽きた人間も当然いるだろう。町の騒ぎかたを見ているととてもそうは思えないが。

 黒眼の修道女は、じっとヴァイスがスープをすくうのを見ていた。
 やがて、どことなく申し訳なさそうに、言った。

「いえ……パレードは見ておりません。子どもたちを連れて行ったことはありますが、子どもの世話で手がいっぱいで、ちゃんと見ていたとは……」
「個人では一度も?」
「はい」

 驚いた。体が悪くて外に出られないわけでもないのに、そんな人間がこの王都にいたのか。

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