託宣が下りました。
「子どもは、自分の感覚に正直ですからね」
ふわりと、修道女は笑った。
ヴァイスの隣に椅子を引き、自分も腰かけながら。
「大人なら隠してしまう気持ちを、包み隠さず披露してしまう。それが子どもですから」
ヴァイスはむうとうなった。
「それはつまり、大人も本当は俺のような討伐者を恐がっているということか」
いや、それは聞くまでもない。
ハンターを毛嫌いしている人種がいることなら、さすがのヴァイスも知っている。
女は寂しげに笑い、
「かく言うわたくしも、目の前で魔物を倒すあなたを見たら、恐い――と思ってしまうのかもしれません」
「………」
「でも」
彼女の手が伸びた。ヴァイスの手に。
今のヴァイスは女の手をしているが、それでもハンターの手だ。ごつごつして、大きい。
「――この手は、ご立派なことをしている手です。その事実の前では、わたくしがあなたを恐いと思うかどうかなんて、どうでもよいことなんです」
どういう意味だ――?
女が何を言いたいのかが、よく分からない。
ただ、剣を持つ右手を両手で包み込んで……まるで愛撫するように、彼女は優しく手をさする。
語りかける口調が穏やかなのは、普段癇癪を起こしやすい子どもや貧乏人を相手にしているからなのだろうか。彼女の声は優しくて……耳に心地よい。
「わたくしは勇者様が魔物を討伐なさったと聞いたとき、真っ先に思いました。ああ、わたくしも自分にできることをしなくては、と」
「自分に、できること……?」
「勇者様はまさしく『自分にしかできないこと』を成し遂げなさったのです。勇者様を称える気持ちはもちろんございましたが、わたくしはそれよりも一刻も早く自分の成すべきことを成したかった」
それこそが勇者様へのお礼になると思ったのです。
温和な声はそう言った。
「礼?」
「はい。わたくしたちは勇者様に生かされた。だったらこの生を、無駄にしてはいけないと思ったのです」
「―――」
ヴァイスは思い出す。
旅に出るきっかけは、ヴァイスの母が魔物に殺されたことだった。ヴァイスの母を自分の母のように親しんでいたアレスは、泣きながら宣言した。『もう二度と死ぬ者のないよう。悲しむ者のないよう』――。
さしもの『無神経』ヴァイスも、その言葉には感銘を受けたのだ。
ただ――五年の歳月のうちに、初心を忘れていった気がする。目的はただ魔王を倒すことにすり替わり、そのことで精一杯で。
魔王さえ倒せれば国は救える――
では、『救う』とは何だ?
目の前の女の言う通り。国民一人一人の『生』を、守るということではないのか?