託宣が下りました。
「簡単にあきらめてどうするんですか? あなたはまだ、シェーラさんの本心を聞いていないんでしょう」
「―――」
「それを聞かないままで、シェーラさんを行かせてもいいと?」
わたくしの口から、泣きそうな声が漏れました。
「――いやです」
ずっと一緒にいました。シェーラになら、なんでも話しました。こちらが大変なときも面白がるような困った友人でしたが、彼女の明るさはいつでもとても心強かったのです。
わたくしの危機に、「私がアルテナを守るから!」と真剣に言ってくれた親友。
「あなたはどうしたいんですか?」
アレス様は穏やかな声になりました。
弱ってしまったわたくしの心を、包み込むような声でした。
カイ様はじっとわたくしを見上げています。長い前髪の隙間から、おろおろと心配そうな目が覗いています。
本当に、優しい人たち……
「………」
わたくしは、胸に当てた手を拳に握りました。
縁談の話はまだ憶測です。
ただシェーラが別荘に帰ってしまった、ということだけが事実。それが本人の意思なのか、それとも無理やりだったのか。
わたくしは、それを知りたい。
「――会いたいです、シェーラに会って……話をしたい」
そう口にしたとき、わたくしの心は決まりました。
*
心配するアンナ様を丸一日かけて説得し――
シェーラがいなくなってから六日目。わたくしは、ひとり馬車に揺られていました。
行き先は王都郊外、ブルックリン伯爵家別荘。
本当はアレス様たちが同行を申し出てくれていたのですが、折り悪くどこかで魔物が発生してしまい、一緒には来られませんでした。後で必ず行くと、約束してくれましたが。
馬車はガタゴトと道のでこぼこを越えながら進みます。
かなり揺れて、気をつけなくては簡単に投げ出されてしまいそうです。他の国ではもっと道が整備されているそうですが、エバーストーンの道は少々荒れています。それというのも、この国は石の多い土壌で、かつ十年もの間魔物の脅威にさらされていたからなのですが。
女性はこの揺れをきらって馬車に乗りたがらないとも言います。
わたくしもあまり好きではありませんが、今は耐えようと目を閉じて祈り続けました。
(シェーラ。無事でいて)