託宣が下りました。

「簡単にあきらめてどうするんですか? あなたはまだ、シェーラさんの本心を聞いていないんでしょう」
「―――」
「それを聞かないままで、シェーラさんを行かせてもいいと?」

 わたくしの口から、泣きそうな声が漏れました。

「――いやです」

 ずっと一緒にいました。シェーラになら、なんでも話しました。こちらが大変なときも面白がるような困った友人でしたが、彼女の明るさはいつでもとても心強かったのです。

 わたくしの危機に、「私がアルテナを守るから!」と真剣に言ってくれた親友。

「あなたはどうしたいんですか?」

 アレス様は穏やかな声になりました。
 弱ってしまったわたくしの心を、包み込むような声でした。

 カイ様はじっとわたくしを見上げています。長い前髪の隙間から、おろおろと心配そうな目が覗いています。
 本当に、優しい人たち……

「………」

 わたくしは、胸に当てた手を拳に握りました。

 縁談の話はまだ憶測です。
 ただシェーラが別荘に帰ってしまった、ということだけが事実。それが本人の意思なのか、それとも無理やりだったのか。

 わたくしは、それを知りたい。

「――会いたいです、シェーラに会って……話をしたい」

 そう口にしたとき、わたくしの心は決まりました。



 心配するアンナ様を丸一日かけて説得し――

 シェーラがいなくなってから六日目。わたくしは、ひとり馬車に揺られていました。

 行き先は王都郊外、ブルックリン伯爵家別荘。

 本当はアレス様たちが同行を申し出てくれていたのですが、折り悪くどこかで魔物が発生してしまい、一緒には来られませんでした。後で必ず行くと、約束してくれましたが。

 馬車はガタゴトと道のでこぼこを越えながら進みます。

 かなり揺れて、気をつけなくては簡単に投げ出されてしまいそうです。他の国ではもっと道が整備されているそうですが、エバーストーンの道は少々荒れています。それというのも、この国は石の多い土壌で、かつ十年もの間魔物の脅威にさらされていたからなのですが。

 女性はこの揺れをきらって馬車に乗りたがらないとも言います。

 わたくしもあまり好きではありませんが、今は耐えようと目を閉じて祈り続けました。

(シェーラ。無事でいて)

< 48 / 485 >

この作品をシェア

pagetop