託宣が下りました。
思い出すのは二年前、わたくしが修道院に入ったばかりの日……
『はじめまして、私も入ったばかりなの。仲良くしましょう』
まとめあげた金髪も美しく、明るい太陽のような笑顔でわたくしに手を差し出したシェーラ。修道女として地味な格好をしていたはずなのに、華やかで掛け値なしに美しかった彼女。
(……縁談が来るのは当然の話だけれど)
むしろ一人からしか来ていないことが驚きです。たぶんもう相手が決まっているから、よそが手を出せない――ということなんでしょう。
シェーラは、縁談についてどう思っているのでしょう?
(修道院に家出してきたからには、結婚したくなかったのかしら)
わたくしは胸にちくりと痛みを感じました。
シェーラはあまり自分のことは話したがりませんでした。彼女が言いたくないことを聞きだそうとも思えなくて、わたくしも触らずにきました。
それが間違いだったのでしょうか。知っていれば、助けになれた……?
(……いえ。落ち込むのはやめましょう)
瞼を開け、前を見ます。
御者は淡々と馬にムチを入れています。ガタゴトと揺れる馬車。
今日は久しぶりに私服です。しまいこんであった外出用のドレスを引っ張り出し、鏡の前で格闘しました。ドレスでの振る舞いかたは簡単に復習しましたが、ブルックリン伯爵に会ってしまったときに上手に立ち振る舞えるか、正直不安です。
でも、行ってみるしかない。わたくしはもう迷いませんでした。
さすがブルックリン伯爵家と言おうか、別荘はとても大きく、近くまで来てしまうと全体が一望できません。
(シェーラはどこ?)
御者に待つように頼み、門番の元へと向かいます。少しはこの家の関係者に見えるよう、悠々と……できているでしょうか。
門番は、不審そうにじろじろわたくしを眺めました。
「ごきげんよう」
わたくしは帽子を取り、胸に当てました。「こちらにシェーラお嬢様が来ていらっしゃると聞いて。わたくし、彼女の友人なんです。アルフィ・リリアントと申します――彼女にお会いできますか?」
……本名を名乗ってしまったら、例の託宣の巫女だとすぐに分かってしまいます。
とっさに口から出たでまかせに、門番は鼻を鳴らしました。