託宣が下りました。
「あなた方がシェーラさんとレイリアさん? 姉がいつもお世話になっています、妹のラケシスです」

 ラケシスはシェーラたちに向かって丁寧に、戦士風の挨拶をしました。

「……はっ!? はいあの、私がシェーラ・ブルックリンです。いつもアルテナにはお話をうかがっています」

 ぽかんとしたままだったシェーラが慌てて淑女風の礼をし返すと、ラケシスはふわりと笑います。故郷では女殺しと呼ばれる微笑です。

 シェーラはすっかり言葉を失ってしまいました。

 ……こんな妹がいると話はしたことがありますが、実際見るのとでは衝撃が全然違うようです。

 かちこちになったシェーラの横で、レイリアさんが無表情に言いました。

「アルテナ様はずいぶん面白い妹さんをお持ちですね」
「はは、忌憚のないご意見ありがとう諜報員のレイリアさん。あなたはお金さえ払えば魔物の情報も拾ってきてくれるのだっけ?」
「お金をいただかなくては何も拾ってきません。それからどちらかというと情報屋と呼ばれるほうが好きですのでそのようにお願いします」
「本当に面白い子だなあ。私も使ってみようかな」
「高くつきますがぜひ」
「やめたほうがいいわよ絶対!」

 シェーラ、心配しないで。ラケシスにはわたくしからよく言っておくから。


 それからラケシスはしばらくシェーラとレイリアさんと談笑(レイリアさんはちっとも笑いませんでしたが)しました。

 わたくしにはそれが、別れの時間を延ばすみんなの気遣いに思えました。

(……このまま、ずっと話していられればいいのに)

 けれどそれを許さないかのように風が強くなります。スカートが乱れ、砂埃が舞います――。

「……姉さん、もう行こうか」

 やがて諦めたように、ラケシスはわたくしを促しました。風からわたくしをかばうような位置に立ち、わたくしの手を取ってエスコートする姿勢になります。こういうときのラケシスはほとんど挙動が男性です。

「別れは惜しいと思うけどさ。父さんたちも待っているから」
「……ええ」
「アルテナ」

 シェーラがわたくしに向かって手を伸ばそうとしました。

 けれどその手を、わたくしは取れませんでした。握ってしまえば……帰りたくないと駄々をこねてしまいそうで。
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