託宣が下りました。
 ――そして最近は。やっぱり消えない――

 王都の雪のようにやんわりと降り積もり、心の一部を占領したまま、消えてくれない。


 彼の口にする何もかもがわたくしにとって初めて耳にする言葉でした。それは……痛みやつらさだけをもたらすものでは決してありませんでした。

 数にすればほんの少しですが……淡い色の雪は確実に増えてきている。

 雪は触れればやがて消えると知っているのに、わたくしはその雪に触れるのを恐れているのです。

 正体を知るのが恐くて。消えてしまうのが……恐くて。


「とにかく良かった。ちゃんと会えたぞ」

 騎士はにこにこして言いました。

 この人のこの笑顔は見慣れていましたが……今日は何だか見ているのがつらくて、わたくしはうつむきました。

「巫女? どうした?」

 騎士はこちらに近づこうとしました。わたくしは思わず一歩退きました。

 と――

「近づかないでください、ヴァイス様」

 わたくしをかばうように、背の高い影が立ちふさがりました。

「ラケシス?」

 わたくしは声を上げました。

 妹が前に立つと、さすがに長身のヴァイス様のこともほとんど見えなくなります。声だけが、ラケシスの肩越しに聞こえて――。

「ん? 君はどこかで見たような」
「ラケシス・リリーフォンスです。最近A級ハンターになりました」
「ああ! 知ってるぞ、女だてらに腕利きのハンターだと有名な――ん? でもなんで君がここにいるんだ?」

 わたくしはむっとしました。ラケシスの傍らから顔を出し、「だてら、は失礼です、騎士よ!」とついいつもの調子で怒鳴ります。

「おっと、いや、すまんそんなつもりでは」
「いいんだ姉さん。そんなことは」

 ラケシスはわたくしを自分の背中へ押しやりました。「顔を出しちゃ駄目だよ」と。

「“姉さん”?」

 騎士がきょとんとします。見ていたレイリアさんが「無神経だと鈍感になるんですかね」とつぶやき、それにシェーラが「だとしたらあんたも超鈍感でしょう」と突っ込んでいましたが、それはともかく。

 ラケシスは苦々しい声で吐き捨てました。

「私の名前を知っているくせに察しがお悪い。あなたは興味がない相手は本当にどうでもいいようですね」
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