託宣が下りました。
「ラ、ラケシス」
「姉さん、もう大丈夫だよ。姉さんのことは私や父さんたちが守るから」

 ラケシスは振り向いて優しく微笑みます。姉のわたくしも惚れ惚れするような笑み。

 ですがその微笑みが、今はわたくしの胸に痛みを引き起こすのです。

「ま、待ってラケシス。彼には色々お世話にもなっているから……シェーラのことも助けていただいたのだし」

 シェーラがこくこくと強く同意を示しています。
 わたくしは何故か焦りを感じながら、さらに重ねました。

「だからね、あんまりひどい言い方はしないで。この人は本当ひどい人だけど、そんなにひどい人でもないから――」

 我ながら何を言っているのかさっぱり分かりません。混乱しているわたくしに、シェーラが声をかけてくれます。

「アルテナ落ち着いて、無茶苦茶になってるわ!」
「えええと、だから、その……っ」
「巫女。かばってくれるなんて感無量だな……!」
「あなたは黙ってください騎士よ!」

 一喝。ああなんでしょう、彼に対するこういう言葉はすんなり出てくるのに。

「姉さん、何を焦ってるの?」

 ラケシスは半眼になりました。そして、

「姉さんだってずっと嫌がっていたじゃないか。知ってるんだよ。叫び声もときどき修道院の外に聞こえていたし」
「――」
「私が上級ハンターを目指した理由の半分はそれだね。いつかヴァイス様と勝負したかった」

 残念ながらまだ追いつけそうにないけど――。ラケシスは鋭いまなざしで騎士をにらみつけます。

「でも、いつか追いついてみせる。姉さんの受けた恥辱は必ず返す」
「ラケシス……!」

 わたくしは妹にすがりつきました。

 妹をとめたかった。でも――何をとめたいのでしょう?
 騎士との勝負を? それとも騎士への反抗を?

 ラケシスがわたくしを守ろうとしてくれている。ずっとずっと欲しかった、掛け値なしの味方です。

 それなのに――。

(どうしてこんなに胸が苦しいの……?)

「そんなわけでヴァイス様。お引き取りください」

 ラケシスはもう一度わたくしをかばう姿勢を取り直し、騎士に言いました。

「――姉は渡しません」
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