託宣が下りました。
 レイリアさんがぼそっと「強敵出現」とつぶやき、「馬鹿! 面白くなっちゃうでしょ!」とシェーラに叱られています。シェーラ、あなたすでに楽しんでいるでしょう。

 騎士はずっと無言でした。無言でラケシスを見つめ返していました。
 背の高い、しかもハンターである二人が相対すると、それだけで空気が違います。他の者では近づけないぴりぴりとした緊張感――。

 風が渡り、彼らの足下を乱していきます。

 また砂埃が舞いました。わたくしは、たえきれず小さくくしゃみをしました。

「くしゅっ」

 ……。

「……アルテナ様、かわいい」
「レイリア!?」

 わたくしは赤面しました。肩をすぼめておそるおそる騎士とラケシスを見ると、二人の表情からは、触れれば切れるような緊張感は消えてなくなっていました。

「大丈夫姉さん? ちょっと寒いかな。早く馬車に乗らないと」
「ち、違うの、ちょっと埃が」
「それじゃあ、私たちはもう行きますので」

 ごきげんよう――ラケシスは戦士式の礼をしました。「もうついてこないでください、ヴァイス様」

 騎士が、ようやく口を動かしました。

「――分かった」
「―――!」

 わたくしの胸が一拍、強く脈打ちました。

 そんなことはきっとつゆ知らず、騎士はさらに続けます。

「今日は引き上げよう。ついていくこともない。ただし」

 おもむろに人差し指を立て――。

「今日だけだ」

 彼は、にやりと不敵に笑いました。

「何と言われようと、俺が諦めるわけないさ。そうだろう巫女よ?」

 ――わたくしは。

 ラケシスの後ろから出ると、騎士をにらみつけました。

 彼の顔を、真正面から見て……そうすれば、いつものように声が出るのです。
< 97 / 485 >

この作品をシェア

pagetop