託宣が下りました。
 わたくしの生まれ故郷ランス州サンミリオンは商業都市です。周辺を農業の盛んな土地に囲まれ、その収穫物を王都やその他の都市へと運ぶことで主な利益を得ています。

 わたくしの父はサンミリオンの町長です。元は州内の商家に生まれ、商業よりも政治を志した結果、その地位までのぼりつめました。

 とてもおおらかで優しい父。ですが、筋を通し芯の強い人です。きっとラケシスはこの父に似たのでしょう。わたくしも受け継ぎたかったのですが、ちょっと違ってしまったかもしれません。

 何にせよ、わたくしは父をとても尊敬しています。その父に逆らって修道女になることを決めたときは、もちろん心を引き裂かれる思いで――。

 え、母ですか?
 ……それはまた別の機会に。ええ、はい。


 馬車はゆっくりと走ります。長旅なので途中の宿場でたびたび休むのですが、消耗は避けるに越したことはありません。

 二頭立て、四輪の箱馬車です。エバーストーンは砂埃が起きやすい土地柄ですので、すべての窓はしっかり閉められるようになっています。

 ですがわたくしは、御者台に続く窓以外は解放させました。やはり自然を眺めるのは気持ちがいいものです。

「お父様たちはどう?」

 わたくしとラケシスは向かい合って座っていました。
 わたくしの問いに、ラケシスはすらすらと答えます。

「母さんはいつも通りだよ。父さんは少し忙しいかな。最近北のザカーリ山のふもとに洞窟(ダンジョン)ができたらしくって」
洞窟(ダンジョン)!?」

 わたくしは身を乗り出しました。

 洞窟(ダンジョン)と言えば、強力な魔物が存在するとそれに影響されて自然発生する場所です。その上その中からはさらに魔物が発生します。文字通り魔物の『巣』であり、文字通りの環境破壊です。

「だからさ、私も姉さんと一緒にしばらくサンミリオンに留まる気でいる。腰をすえて洞窟の主を倒さないと――かなりの強敵らしいから」

 ラケシスは顔の前で手を組み合わせ、真剣に語ります。
 その目はまさしく討伐者(ハンター)の目――。

 その凜々しくもしなやかな表情に、わたくしは見入ってしまいました。

(強くなったのね、ラケシス)

 それが妹の本望であることを思えば、強くなってくれて嬉しい。

 けれど一方で、複雑な思いがあります。わたくしはそもそも()()()()()が苦手なのですから。
 それは相手が妹であっても同じで――。
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