ふたつ名の令嬢と龍の託宣
 ダーミッシュ家は、典型的な『無知なる者』の家系だったはずだ。それはもう、うらやましいくらいに。だからこそ、リーゼロッテの養子縁組先の候補に、いの一番に選ばれたのだから。

 そして、ダーミッシュ家には王家の血筋は流れていない。ならば、託宣の存在を知るはずもないだろう。リーゼロッテはその身に託宣を受けながら、それを知る者がいない環境で育ってきたということか。

「リーゼロッテ嬢は、ダーミッシュ伯爵の息女だったね」

 リーゼロッテがうなずくと、ハインリヒは探るような様子で言葉を続けた。

「ダーミッシュ伯とリーゼロッテ嬢は、血のつながりが、その、なんというか……」

 彼女は自分が養子であることを知っているのだろうか? 言葉を選びながらも、ハインリヒは言いあぐねた。事実を知らされていなかった場合、自分の口から言うのは憚られると思ったからだ。

「恐れながら王子殿下、わたくしは自分が養子であることを存じております」

 本来なら王族の発言を遮るなどあってはならないのだが、困ったように言葉を探すハインリヒをみて、リーゼロッテは口をはさんだ。

 この王子は噂のような冷たい人ではなく、本当は心やさしい方なのだとリーゼロッテは感じていた。実際に王子はリーゼロッテの発言に怒る様子もなく、「そうか」と返しただけだった。

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