ふたつ名の令嬢と龍の託宣
「王位だけではない。君とヴァルトの婚約も、龍から賜った託宣の一つだ。……託宣を受けた者は必ず体のどこかに、龍のあざがある。君にもあるだろう?」

 ハインリヒは、それまではめていた白い手袋を左手だけ外して、その手の甲を見せた。リーゼロッテの胸にあるあざに似た文様がそこにはあった。再び手袋をはめると、ハインリヒは少し疲れたように言った。

「託宣が下りるのは、直系の王族だけじゃない。王女の降嫁や臣籍に降りた王族など、王家の血が入った系譜に降りることもある」

 それこそ、婚姻にかかわること以外にも信託はおりるのだ。そうつけ加えたハインリヒの表情は、少し苦しげにも見えた。

「王子殿下の託宣のお相手はどなたなのですか?」

 今の話の流れだと、王太子であるハインリヒにも、龍の託宣で決められた結婚相手がいるはずだ。王子のお見合い大会を思い出し、リーゼロッテは疑問を何気なく口にした。

 託宣で決められた相手がいるのなら、隠しておく意味はないだろう。王太子の婚約者の座が空いているとなると、いらぬ争いの種になるのは明らかだ。

 しかし、リーゼロッテは瞬時にその発言を後悔した。目の前で王子が、言葉を失ったからだ。

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