ふたつ名の令嬢と龍の託宣
 テーブルの端から真ん中を通りすぎて、リーゼロッテに提供したティーカップのあたりで、視線が一度止まる。そして、またリーゼロッテの顔をみやった。かと思うと、またカップに視線を戻す。

 リーゼロッテもつられて少年の目線の先を追うが、とくに虫など何かがいる様子も見えなかった。

「ときにリーゼロッテ嬢」
 
 ハインリヒの声に、リーゼロッテははっと顔を上げる。

「そこにいるソレは、見えているかい?」

 先ほどと打って変わって、明るい口調で問われた。そこにいるソレ、と王子が手袋をはめた指先で指し示した先にあるのは、くだんのティーカップであった。淹れたての紅茶が、湯気を立てている。

「そこには、紅茶がございます」

 ティーカップを見つめながら、リーゼロッテはそう答えた。遠慮せずに、飲めということだろうか?

 戸惑いつつもリーゼロッテが手を伸ばそうとしたとき、誰も触れていないカップがかちりと鳴って、紅い水面に波紋が広がった。

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