ふたつ名の令嬢と龍の託宣
 廊下にあった柱の影に、吹き溜まりのような黒いモヤが見えた。よく見ると、そこから黒い崩れかけた異形の者が、這い出すように手を伸ばし、リーゼロッテの足を掴もうとしていたのだ。

「っんゃ!!!」

 昨日見た小鬼よりもずっと大きな異形の者に、リーゼロッテは飛びのいて反射的にジークヴァルトにしがみついた。ジークヴァルトはそれを無表情で受け止めた。

 やっとの思いでしばらく進むと、王城の廊下には、似たような異形の者がそこかしこにいて、リーゼロッテはそのたびにジークヴァルトにぎゅうぎゅうとしがみついた。はたから見ると、廊下の先々でふたりがイチャついているようにしか見えない。

 手を引きつつ、反対の手をリーゼロッテの腰に添えた状態で、ジークヴァルトはそっけなく言った。

「異形といちいち目を合わすな。つけこまれる」
「そのように言われましても……」

 見て見ぬふりなどできようもなく、涙目でリーゼロッテは訴えかけた。

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