ふたつ名の令嬢と龍の託宣
 リーゼロッテの問いかけに、ハインリヒは「ああ」と言って頷いた。

「これは亡き母の形見だが……そうだね。今ではほとんどわたしの力が込められている」
「王子殿下の守り石は紫色なのですね」

 ハインリヒの守り石は、まるでアメジストのような輝きを放っていた。リーゼロッテが不思議そうに懐中時計を見つめていると、「守り石はおおむねその者の瞳の色と同じになる」とジークヴァルトが説明した。

「石には質と相性がある。誰かれなく込められるものではない」

 ジークヴァルトの言葉にリーゼロッテは、「そうなのですね」と驚いたように返した。

「セレスティーヌ様もハインリヒ様と同じ紫の瞳だったんですよね?」

 セレスティーヌとは前王妃、ハインリヒの実母のことだ。この国では、紫の瞳は王族にのみ時々現れるめずらしい色だった。カイが問うと、ハインリヒは「ああ」と頷いた。

「その守り石にはもともと王妃様の力が込められていたのですか?」

 リーゼロッテの言葉にハインリヒは懐中時計を見つめながら答えた。

「子供の時はそうだったのだろうね。わたしもよく覚えていないが」

 ハインリヒは物心つく前にセレスティーヌを亡くしている。哀しいかと問われても、母親に関しては思い出の一つもなかった。

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