ふたつ名の令嬢と龍の託宣
 そのまましばらく進むと、急に後ろからジークヴァルトに手をひかれた。二の腕をつかまれ、勢いで背中がジークヴァルトの腹にぶつかる。

「急ぐことはない。危ないからゆっくり歩け」

 真上からそう言うとジークヴァルトは腕から手を放した。

「はい、申し訳ありません」
「わかったら早く進め」

 今度はジークヴァルトに背を押される。

 急ぐなと言ったり、急げと言ったり。お茶会で再会してから毎日顔を合わせているが、ジークヴァルトはやさしいのか意地悪なのか、リーゼロッテはわからずに混乱していた。

 気を遣われているような気もするが、意地悪を楽しんでいるようにも、いないようにもみえる。基本、無表情で口数も多くないので、ジークヴァルトの真意がわからない。何かを尋ねても、「問題ない」の一言で済まされることが多かった。

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