ふたつ名の令嬢と龍の託宣
 ふたりはしばらく無言で進むと、廊下が少し広くなったところに出た。ここは廊下が二手に分かれていて、曲がった廊下の先は王城の中心部へとつながっていた。いつもはこのまま真っ直ぐ進むのだが、その廊下の付近にはいつも以上に騎士たちがごった返していた。

 王城の廊下は、決して狭いわけではない。大の大人が4~5人くらい並んで歩いても余裕なくらいだ。しかし、今日はガタイのデカい騎士たちの人だかりができていて、むさくるしいことこの上なかった。

 リーゼロッテは、みなの視線が一斉に自分に向けられたことに驚き、反射的にジークヴァルトの後ろに隠れた。それまでがやがやしていた声も、ふたりの登場にしんと静まり返った。

「あの、フーゲンベルク副隊長。いつもお連れになっているそちらご令嬢は、いったいどなたなのですか? 我々にもぜひ紹介してください!」

 ひとりの騎士が、前に出てジークヴァルトに声をかけた。周囲の騎士たちは、お前よくぞ言った!という雰囲気で前のめりに聞き耳を立てている。

「……お前たちには関係ない」

 絶対零度の無表情で、ジークヴァルトが威圧するように返した。「ええー、そんなー!」と、あちこちから抗議の声が上がる。

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