ふたつ名の令嬢と龍の託宣
 そんな時、騎士たちの人だかりが割れ、奥から一人の体格のいい壮年の騎士が現れた。他の騎士に比べると騎士服が立派な装飾で、ジークヴァルトのように偉い立場の人のようだった。

「あ、隊長。副隊長がひどいんですよ。こんなにかわいいご令嬢を独り占めして」
「バカか、お前らは。こちらのご令嬢は、副隊長の婚約者殿だ」

 周囲にどよめきが広がる。うそだ、ずるい、妖精が悪魔の手に、など、非難のうずが巻き起こった。

「いや、すまない。こいつらが迷惑をかけたね。ああ、失礼した。わたしはブルーノ・キュプカー。護衛騎士団近衛第一隊の隊長を務めさせてもらっている」
「いえ、わたくしこそご挨拶が遅れて申し訳ございません。わたくしは、リーゼロッテ・ダーミッシュと申します。こちらこそ、ジークヴァルト様を独り占めしてしまい、申し訳ありませんわ」

 リーゼロッテは、優雅な振る舞いで完璧な淑女の礼をとった。その可憐な姿に、周囲から息をのむ声が上がる。

「いや、ダーミッシュ嬢の護衛は王太子殿下からの命だ。きちんとした職務だから、あなたが気にする必要はない」

 やさしい声音に、リーゼロッテは領地にいる義父・フーゴを思い浮かべた。そして、キュプカーのブルネットの髪と榛色(はしばみいろ)の瞳に、ふと既視感を覚える。

「あの、キュプカー様……キュプカー様はもしや、ヤスミン様のご血縁の方でいらっしゃいますか?」
「おや、娘とお知り合いでしたかな? 迷惑をおかけしていなければいいのだが」

 キュプカーの榛色の瞳がキラリと光る。あのミーハー娘が、ダーミッシュの妖精姫と知り合いだったとは。さぞや狂喜乱舞したのではないだろうか。

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