ふたつ名の令嬢と龍の託宣
「んきゃっ」

 見ると、ジークヴァルトがリーゼロッテを横抱きにして抱えていた。急に視界が高くなり不安定な体勢に、思わずジークヴァルトの首にしがみつく。

「ななな何をなさるのですか」
「危険だ。やはりお前はオレが運ぶ」

 言うなりジークヴァルトは大股で廊下を進み始めた。

「や、ジークヴァルト様、先ほど恥ずかしいと申し上げたはずです!」
「“荷物のように“運ばれるのが嫌なのだろう?」

 抗議の声を上げるが、そう一蹴された。だから横抱き、いわゆるお姫様抱っこなのか。一瞬納得しかけて、リーゼロッテはかぶりを振った。

「そうではありません! いえ、もちろんそれもあるのですが、抱きかかえられるのは淑女としてとても恥ずかしいのです! それに危険と言っても、先ほどは問題なく歩けましたわ。小鬼も寄って来なかったではありませんか」
「そっちではない」

 リーゼロッテは、先ほどよりジークヴァルトの顔が近いことに動揺しつつも言いつのった。

「そっちでなければどちらだというのですか? そもそも、廊下には護衛の騎士様がいっぱいいらっしゃるではありませんか!?」
「危険だろう」
「どこが危険だというのです!?」

 騎士がいっぱいいて一体何が危険なのか。この上なく安心・安全だと思うのだが、ジークヴァルトとの会話はどうもかみ合わない。

「どう考えても危険だろう。馬鹿なのかお前は」

リーゼロッテは二の句が継げずに、小さな口をパクパクした。

(ば、バカなのはお前だ―――!)

 バカっていう方がバカなんですと、リーゼロッテの心の叫びが脳内で木霊したとき、ふたりは人気のない廊下に差しかかった。

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