ふたつ名の令嬢と龍の託宣
 兜の生首大公と目が合って、リーゼロッテは引きつった笑みを浮かべた。叫ばなかっただけ自分でも偉いとほめてやりたい気分だ。

『ふむ。ラウエンシュタインの今度の守護者は、どうしてなかなか……』

 目を細めて楽しそうに鎧の大公は言った。

『しかし、龍は何を考えてるのやら』

 そう呟くと、鎧の大公は再びベンテールをかしゃりと下ろした。

『さて、わしはもういかなくては。機会があればまた会おうぞ』

 そう言い残すと、鎧の大公は鎧の音を響かせて、薄暗い廊下の向こうに去っていった。

「……王城とは不思議な場所ですわね」

 鎧の大公が去った廊下をみやりながら、リーゼロッテが呟くように言った。

「大公は、城の名物みたいなものだ。夜な夜な感じる者を脅かしては楽しんでいる」

(王城の七不思議的なものかしら?)

 リーゼロッテがそんなことを思っていると、ジークヴァルトは再びリーゼロッテを抱え上げた。

「きゅ、急に抱き上げるのはやめてくださいませ」
「しかし、大公に礼を取ったやつは初めて見たぞ。言っておくが、周りには独り言を言っている変人にみられるからな」
「ヴァルト様が先に大公様に話しかけたのではありませんか」
「お前が気にするからだ」

 そっけなく言うと、ジークヴァルトは大股で廊下を移動し始めた。
 
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