ふたつ名の令嬢と龍の託宣
 そんなに自分は危なっかしいのだろうか。ジークヴァルトはもちろん、エラや給仕にやってくるほかの侍女たちにも、何度も何度もきつく言われていた。耳タコである。

「申し訳ないが、それに関してはわたしも同感だな」

 黙って聞いていたハインリヒ王子にも苦笑気味にそう言われ、リーゼロッテはますます絶望的な顔をした。

「安心しろ。どこかへ行きたいときにはオレが連れていく」
「行きたいところとおっしゃいましても……」

 ジークヴァルトにそう言われたが、王城内では客室とこの王太子用の応接室を往復する毎日だ。他に出かける用事などがあるわけもなく、リーゼロッテは首をひねった。

「ああ、リーゼロッテ嬢には窮屈な思いをさせているね。気晴らしに何かあるといいのだが」

 ハインリヒの言葉にリーゼロッテはかえって恐縮してしまう。

「王子殿下。わたくし、領地のお屋敷にいるときよりも、ずっと自由に、快適に過ごさせていただいております。感謝こそすれ不満を申し上げるなんてとんでもないことですわ」

 物心ついたときから毎日小鬼たちに転ばされていたことを考えると、リーゼロッテにとって今の生活はパラダイスだった。その言葉に、ハインリヒがジークヴァルトをジト目で見る。

「ヴァルト、リーゼロッテ嬢がよくできた婚約者で本当によかったな」

 ジークヴァルトは聞こえなかったかのように、ふいと顔をそむけた。

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